全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は3月25日、武田薬品工業(4502)と国立長崎大学、長崎県五島市とともに五島列島の福江島から久賀島までの片道約16kmを、固定翼型VTOL(垂直離着陸)ドローンを使って医薬品を運ぶ実証実験を報道関係者に公開した。飛行中は時速100km前後に達する固定翼型ドローンを使うことで、片道約10分で運んだ。ANAHDが固定翼型ドローンを飛ばすのは今回が初めてで、航続距離など離島配送で課題となる要素の解決につなげ、実用化を目指す。
久賀島は、人口185世帯305人が暮らすU字型の島で、五島列島最大の福江島からは1日5便の定期船が運航されている。定期船が発着する田ノ浦港から山を越えた島の中心に郵便局や診療所、商店などがあり、医薬品を運ぶ際には、診療所の職員が港まで取りに行く必要があるほか、住民の高齢化が進んでおり、新たな輸送手段の確立が求められている。
使用した固定翼型ドローンは、独ウイングコプター(wingcopter)製「WingCopter178 heavylift」。プロペラは4基あるが、すべて使うのは離着陸時のみで、水平飛行に入ると前方に左右1基ずつある計2基のプロペラのみ使い、飛行機のように飛ぶ。水平飛行中にプロペラ1基が停止しても飛び続けられる設計で、今回の実証実験では万一単発になった際の飛行ルートなども設定した。
最大飛行距離は向かい風で18km、追い風で72km、飛行可能時間は最長30分で、最大離陸重量は16kgとなっている。飛行可能な最大風速は地上が8m/s、上空は15m/sとなる。
ANAHDで次世代事業を模索する「デジタル・デザイン・ラボ」で、ドローン事業化プロジェクトリーダーを務める保理江裕己さんは、「マルチコプターと呼ばれる一般的なドローンと比べて、固定翼型のエネルギー効率は約10倍と言われている」と説明する。飛行機と同じく翼から揚力が発生するため、プロペラを前方に進むためだけに使うことで、飛行時に発生する騒音を抑えられるという。
実証実験では、久賀島の患者が長崎大学の専門医と久賀島の診療所に常駐する医師、福江島の薬局をビデオ会議システム「Zoom」で結んだ診察を受け、医師の処方箋に従って薬局が薬を用意した。医薬品は薬局からドローンが発着する福江港までは車で運び、固定翼型ドローン底部のたまご形容器に収めて空輸した。目的地の久賀島では、内陸にある島の中心地にドローンの発着場が設けられ、受け取りに来た診療所の看護師にANAHDのスタッフから託された後、看護師が患者の家族に手渡した。
実験に協力した家族の女性によると、薬を船で福江島まで取りに行く場合、海上タクシーで往復2時間半、定期船では4時間半かかるという。お年寄りは長時間座るのも大変なので、ドローン配送は「相当楽だ」と話していた。
25日の空輸1便目となった福江発久賀行きのドローンは午後1時50分に離陸し、15分飛行して午後2時5分に着陸。福江へ戻す2便目のフライトは午後2時20分に離陸して11分飛行し、午後2時31分に着陸した。上空は北風6m/s、対地速度は往路約65km/h、復路約105km/hで、総飛行距離は約34kmとなった。水平飛行中は無音に近い静かさで、離着陸時もマルチコプターより静かだった。
実験を終え、ANAHDデジタル・デザイン・ラボの久保哲也チーフディレクターは、「無事固定翼の飛行が成功したので、距離のある配送を実現させたい」と語った。保理江さんは、「固定翼型とマルチコプター双方に利点がある。固定翼型は飛行距離5km以上に向いており、五島にはフィットすると思う」と述べた。
長崎大学の前田隆浩教授は「遠隔診療の一連のプロセスを検証できたが、社会実装には課題がある」と述べ、実現に向けては規制緩和など国全体で対応が必要と指摘した。
*写真は18枚。
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