エアライン, 企業, 空港 — 2020年7月20日 22:30 JST

JAL、現地に行かない離島旅行 サザエのカンカン焼き体験、コックピット映像や機内サービスも

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 新型コロナウイルスの影響で旅行を自粛する人が多い中、日本航空(JAL/JL、9201)はデジタルコンテンツとリアルな旅行体験を融合した「リモートトリップ」を初めて実施した。現地の映像や音をビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」で伝え、旅先の特産品を事前に参加者へ送り、食べ物の食感や香りも楽しんでもらい、地元との人とも画面を通じてふれ合ってもらうものだ。

海士町でとれたサザエやヒオウギガイを使ったカンカン焼きを楽しんだJALのリモートトリップ第1弾=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
サザエを事前送付
羽田発隠岐行き”直行便”
「空飛ぶ合唱団」発案パイロットも
磯の香りが良かった

サザエを事前送付

 第1弾の今回は、島根県隠岐郡海士町(あまちょう)が旅の目的地。リモートトリップを企画したJALデジタルイノベーション推進部の下川朋美アシスタントマネジャーによると、今年のゴールデンウイークごろから企画を考え始め、5月末くらいから準備が始まったという。海士町は、すでにリモートトリップに取り組んでいて実績があったことから、第1弾の目的地に選んだという。海士町でリモートトリップを手掛ける島ファクトリーとともに、羽田から隠岐空港へのフライトを仮想体験できる「デジタルフライト」と組み合わせて、約2時間の旅を商品化した。

リモートトリップではカヤックからの動画配信も=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回の旅行商品は「JAL羽田-隠岐デジタルフライトで行く、隠岐 海士町の潮風リモートトリップ」と名付け、7月1日から販売開始。JALによると、島ファクトリーのリピーターやJALのTwitterなどSNSで知った人から申込があり、10日ほどで完売したという。リモートトリップ当日の18日は、30組の参加者がZoom上で隠岐への旅を楽しんだ。自宅などから参加できるとあって、沖縄など全国各地からくつろいだ様子で隠岐を満喫していた。

 参加者には、海士町特産のサザエやヒオウギガイ(檜扇貝)、コンロでこれらの「カンカン焼き」を楽しむための缶、JALが機内サービスで提供しているオリジナルジュース「スカイタイム」の紙パック、客室乗務員の手作りマップなどが「体験用ボックス」として事前に届けられた。また、搭乗券や飛行機のシールなども添えられた。

 リモートトリップの料金は、サザエやヒオウギガイの個数に応じて3つのコースを用意。サザエ4個とヒオウギガイ2個の梅コースが5500円(税別)、2-3人用の竹コースは7500円で、サザエ10個とヒオウギガイ4個、4-5人用の松コースが9000円で、サザエ15個とヒオウギガイ8個となっており、いずれも「カンカン焼き」の缶と、保冷剤代わりの海士町産冷凍糸もずく(500グラム)がセットになっている。

 隠岐空港に就航しているJAL便は、グループで地方路線を担うジェイエア(JAR/XM)の伊丹-隠岐線と、鹿児島空港を拠点とする日本エアコミューター(JAC/JC)の出雲-隠岐線の2路線。東京から実際の便で向かう場合は、羽田から伊丹経由で向かうことになるが、今回のデジタルフライトは羽田から隠岐への直行便となった。

羽田発隠岐行き”直行便”

 リモートトリップ当日は、参加者が自宅などからZoomにログイン。JALのスタッフは東京・天王洲の新技術研究拠点「JALイノベーションラボ(JAL Innovation Lab)」で、背景合成用グリーンスクリーンや、客室を模したコーナーから参加した。目的地の海士町では、島ファクトリーのスタッフが動画配信用の小型カメラを手に、参加者に代わって町内を巡った。

羽田空港の出発ロビーを背景に天王洲のイノベーションラボから挨拶するJALの下川さん=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

リモートトリップ開始時に天王洲のイノベーションラボから挨拶するJALの下川さん=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 旅の出発地点は羽田空港。下川さんが羽田の出発ロビーを背景に、旅の流れを説明した。デジタルフライトの羽田発隠岐行きJL2262便に参加者が“搭乗”すると、パイロットと客室乗務員がフライトの案内役として登場した。

 離陸時には、今回のために撮影したパイロットが訓練に使うフライトシミュレーターの映像を流し、参加者をコックピットに招待。参加者たちはZoomのチャット機能を使い、喜びの声を寄せていた。そして、客室乗務員と一緒に参加者がスカイタイムを紙コップに注ぎ、機内サービスを受けているかのような流れになっていた。

 約30分間のデジタルフライトでは、クイズ大会も開かれ、便名「JL2262便」の由来や飛行機が燃料を積んでいる場所などが出題され、ここでもチャット機能を使って参加者が回答を寄せていた。

 隠岐空港へ到着後はフェリーに乗り継ぎ、海士町へ到着。カヤックの神社の様子や地元の人とのふれあいなど、現地からの中継を楽しみつつ、サザエやヒオウギガイのカンカン焼きの時間を迎えた。島ファクトリーのスタッフが現地からカンカン焼きをおいしく食べるコツなどを説明し、15分ほどかけてできあがりを待った。海士町のサザエは7月に漁が解禁されたばかりで、待ち時間には漁の様子を撮影した動画が放映された。

 島の観光に加え、JALのスタッフが参加者と交流する時間も設けられた。今回のリモートトリップは下川さんのほか、パイロット4人と客室乗務員1人の6人が進行役としてかかわり、動画配信などに携わる社員を含めると約10人が運営側として参加した。旅好きな人に加えて、航空会社で働きたいという参加者の姿もあった。

羽田から隠岐へ向かうデジタルフライトで機内サービスする客室乗務員=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田から隠岐へ向かうデジタルフライトで機内サービスする客室乗務員=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「空飛ぶ合唱団」発案パイロットも

 2018年のイノベーションラボ立ち上げ当初から関わるデジタルイノベーション推進部の斎藤勝部長によると、新型コロナの影響で春から運航便数が減ったこともあり、JAL本体で運航する各機種のパイロットが1人ずつ同部に加わり、今回の企画にも参加することになったという。

天王洲のJALイノベーションラボからリモートトリップに参加するパイロットの小澤さん(左)と安居さん=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

天王洲のJALイノベーションラボからリモートトリップに参加するパイロットの小澤さん(左)と安居さん=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「5つの機種の部署から若手を出してもらっていて、みな副操縦士です。運航本部も若手に色々なことを経験させ、日ごろの運航につなげてもらいたいという思いがあるようです」と、斎藤部長は話す。参加した4人のパイロットの中には、パイロット有志による男声コーラスグループ「空飛ぶ合唱団」を立ち上げた767乗員部の副操縦士、小澤佑介さんの姿もあった。

 デジタルフライトにシミュレーターの映像を取り入れようと発案したのは、小澤さんら企画に携わったパイロットたちだった。「こういう映像があればお客様も楽しめるのでは、とシミュレーターの映像を入れることにしました。(映像は離陸シーンが中心だったので)本当は着陸までやりたかったです」と小澤さんは話す。

 777乗員部から参加している副操縦士の安居卓也さんは、「集まったのは4回くらいで、短時間で内容を決めていきました」と、企画決定後の準備時間はあまりなく、サービスを提供するタイミングを重視したようだ。

羽田から隠岐へ向かうデジタルフライト。参加者には事前にカンカン焼きの材料やスカイタイムが届けられた=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

磯の香りが良かった

 リモートトリップは海士町からフェリーに乗り、出航するところで終了。参加者からは「カヤックからの波の音や砂の音は、実際にいたらそこまで耳に入ってこなかったかもしれない。リモートならでは気づきがありました」「食事が楽しめて、磯の香りを感じられてよかったです」と、リモートトリップと聞いて不安に感じていた人も含めて、リアルな旅とは違った収穫があったようだ。JALもリモートトリップで地域の魅力を知ってもらい、次は実際に現地を訪れてもらいたいと考えている。

海士町でとれたサザエやヒオウギガイを使ったカンカン焼き=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 自宅などからZoomで参加するとなると、一人旅や家族旅行のような感覚になるのか、はたまたバスツアーのような感覚なのかを参加者に尋ねると、多くの人がツアーに参加しているようだったと感想を話してくれた。また、スマートフォンやパソコンでZoomのインターフェースが異なることから、Zoomをどのような端末で使うかでも違った印象を受けるのではと指摘する人もいた。

 初のリモートトリップを終えた下川さんは、「イノベーションラボでは、商品として完璧とは言えないまでも、今やることに意義があるものはまず出していこう、という考え方があります。実施前の社員を対象にしたリハーサルでは、課題も判明しました」と話し、今後は実際の運営で見つけた課題を解決して第2弾につなげたいという。

 今回のリモートトリップでは、特産品を自宅で味わう部分がセットになっていることが、参加者の味覚と臭覚を刺激したようだった。また、JAL便の機内で提供しているスカイタイムも参加者の元へ送り、客室乗務員やパイロットが画面に登場することで、実際のフライトとは違った形で旅行の道中を楽しんでもらう工夫が盛り込まれていた。離島への旅となると、ハードルが高いと感じる人もいる中、一度リモートトリップで目的地のポイントを体験していると、実際に訪れようという気持ちになりそうだ。

湯気が出るカンカン焼き=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

リモートトリップの参加者へ事前に送られた搭乗券や海士町の案内、客室乗務員の手作りマップ=20年7月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
日本航空
島ファクトリー
隠岐世界ジオパーク空港
島根県隠岐郡海士町

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