日本のローカル航空路線20カ所以上を乗り歩き、路線別、運航機種別にその魅力をまとめた『日本のローカル航空』(河出書房新社、税別1600円)を、作家で航空ジャーナリストの秋本俊二さんが上梓した。秋本さんにローカル路線の現状と将来を聞いてみた。
── なぜ、この本を出版しようと思い立ったのですか。
秋本:2019年3月に仕事で函館に行ったのですが、その時に北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)が函館-奥尻島線を飛ばしていることに気づきました。実際に乗ってみて乗客はあまりいないのですが、観光という面に加えて「生活の足」の役割を果たしており、また奥尻島は1993年の北海道南西沖地震の津波で大きな被害があり、災害時の救援という面でも、誰かが路線を維持しなくてはならないという事実に突き当たりました。それをきっかけに、全国のローカル線に乗って本にまとめてみたいと思い立ちました。
── 実際に乗ってみていかがでしたか。
秋本:主要幹線を運航している大手の航空会社のサービスは、どうしても全国へ路線を持っているわけで統一的にならざるを得ないのですが、その点、ローカル路線は機体のデザイン、方言のアナウンスだったり、手作りの機内誌だったりと、その土地ならではのものがあり、そこに面白さがあります。地方の物流や防災のために路線は維持されなければならないと思いますが、それなら観光に来た人が、ぜひ一路線でも乗って欲しいと思います。
── 面白いと思った路線は。
秋本:東京なら調布飛行場から伊豆大島へ行く新中央航空の路線。東京の風景を見ることができます。長崎から五島列島などを飛ぶオリエンタルエアブリッジ(ORC/OC)の路線も、五島列島の風景が見えます。ローカル路線全般に言えますが、使われている機体は翼が胴体よりも上にあるプロペラの高翼機が多く、ジェット機の半分から3分の1の高度5000メートル付近を飛びますので、ちょうど雲の下に入って景色がパノラマのように見えます。これが心地いいです。
── ローカル路線は「赤字」というイメージがついて回る気がします。
秋本:例えば天草エアライン(AHX/MZ)は1機だけで運航しています。これで運航からパイロット訓練などまで行っています。故障したり定期整備に入って運休すれば、損失になります。ですが、最近はローカル航空会社同士で機材を融通し合って、なるべく運休させないような体制づくりが始まっています。こうした動きがもっと広がればいいと思います。
── 現在、新型コロナウイルスでローカルを含めて航空会社は大きな変化を迎えています。
秋本:まず、コロナでのこのような状況は逆風であることは事実です。ローカル路線は、基本的に仕事などの“なにか用事があって搭乗する”ということが少ない路線です。そこで天草エアラインのように「イルカのデザインの飛行機に乗りたい」など“乗ること自体が目的”というような旅の提案ができれば、いい方向に向くと思います。ジェットコースターのような感覚で乗る。そのことは地域を応援することにもなると、この本を通して訴えたいです。
── 秋本さんはコロナ後、航空界はどうなると考えますか?
秋本:2008年のリーマンショック後、日本の企業も海外への出張が自粛されました。当時から電話もメールも、あるいは大企業ではテレビ会議システムを持っているところもありました。海外の日本人相手のビジネスをしている人から「もう、日本からは人が来ない」という意見がありました。しかし、実態はそうはなりませんでした。
どんなにシステムが発達しても、ビジネスでは人と人が会って信頼を結ぶところから始まると考えると、時間はかかかるかもれませんが、航空需要は必ず戻ってくると確信しています。
【著者略歴】
あきもと・しゅんじ 東京都荒川区出身。大学在学中からフリーライターとして活動。アメリカなどでの海外生活を経て航空関係を中心にした作家・ジャーナリストに。著書に『空を飛べるのはなぜか』(サイエンスアイ新書)など多数。
関連リンク
日本のローカル航空(河出書房新社)
著者に聞く
・『国際線機長の危機対応力』横田友宏さん
・『世界の旅客機捕獲図鑑』チャーリィ古庄さん
・『JETLINER VI(EVOLUTION)』ルーク・オザワさん
・『航空機と空港の役割 航空機の発展とともに進歩する空港』唯野邦男さん
・『航空のゆくえ─自由化の先にあるもの』柴田伊冊さん
雑誌
・「世界の最重要エアライン100」月刊エアライン 20年8月号
・「CA制服&ヒストリー2020」月刊エアステージ 20年8月号
・「空自C-2空中受油訓練同乗取材」航空ファン 20年8月号
・「最新エンジン・テクニカルレポート」航空情報 20年8月号
・「やっぱり一度は乗ってみたい!エアバスA380」航空旅行 vol.33
書籍
・イカロスMOOK『ヒコーキ写真テクニック 2020 Spring Summer』
・イカロスMOOK『CA&グランドスタッフ筆記試験問題集』
・Pen+『完全保存版 エアライン最新案内。』
・「世界航空機年鑑 2019〜2020年」
・イカロスMOOK『エアライン GUIDE BOOK 改訂新版)』
・イカロスMOOK『政府専用機 B-747』
・井上泰日子『最新|航空事業論[第3版]エアライン・ビジネスの未来像』
・イカロスMOOK『ANA&JAL 日本のエアラインCAになる本』
・丹治隆『どこに向かう日本の翼―LCCが救世主となるのか―』
・大宅邦子『選んだ道が一番いい道』