羽田空港の国際線発着枠が2020年3月29日開始の夏ダイヤで増枠され、航空会社は羽田発着便を拡大する。これまでは東京オリンピック・パラリンピックを見据えた準備が目立ったが、今後はその後の訪日客拡大に狙いを定めた路線展開が増えていく。そうした中、魅力的な路線とともに重要なのが、航空会社にとって主力商品である客室設備の充実だ。中でもビジネスクラスは各社がしのぎを削る最重要プロダクトと言っても過言ではない。
全日本空輸(ANA/NH)は、7月11日に長距離国際線に投入しているボーイング777-300ER型機の新仕様機をお披露目。同社の空港ラウンジ監修も手掛ける建築家の隈研吾氏と、英国のデザイン会社Acumen(アキュメン)がデザインを監修したもので、ファーストクラス「THE Suite」とビジネスクラス「THE Room」はドア付きの個室タイプで、機内の個人用モニターとしては世界初となる4K対応モニターを採用した。
ドア付き個室タイプのビジネスクラスは、日本初採用。配色も従来はANAのコーポレートカラーであるブルーを基調としていたが、日本の建築を想起させる落ち着いたものになった。
新仕様機は8月2日から羽田-ロンドン線に投入し、11月8日からは東京(羽田・成田)-ニューヨーク線にも就航。2020年3月28日までの冬ダイヤ期間中に、3都市目の羽田-フランクフルト線にも投入する計画だ。ANAのフラッグシップである777-300ERの新仕様機が最初に導入されたロンドンは出張と観光双方の需要があり、最重要路線のひとつと言える。ANAの欧州・中東・アフリカ室空港業務統括部長で、ロンドン支店空港所長も務める大野公大さんに、ロンドン線の新ビジネスクラスの反応や現状を聞いた。
—記事の概要—
・「お客様は着いてからが本番」
・30周年迎えたロンドン線
「お客様は着いてからが本番」
新仕様機の座席数は4クラス212席で、ファーストが8席、ビジネスが64席、プレミアムエコノミーが24席、エコノミーが116席。全クラスに電源コンセントと充電用USB端子を設けた。個人用モニターのコンテンツは、ANAのスマートフォンアプリと連動させており、機内サービスの時間帯を画面で確認できるようにし、10時間以上の長いフライトで乗客が自分の時間を過ごしやすくしている。
ビジネスクラスのシート配列は、1-2-1席の1列4席。これまでと同じく全席通路アクセスだが、新たに進行方向の前向きシートと、逆向きの後ろ向きシートが互い違いに並んでいる。シートの最大幅は現行の約2倍となり、ANAの歴代ビジネスクラスではもっとも広い空間を実現したという。個人用モニターも24インチと、従来の17インチから大型化した。
「お客様からは、広いねという感想を伺っています。個室で過ごしやすくなったという方が多いですね」(大野さん)と、乗客の反応は上々だという。平均9割の搭乗率を誇るロンドン線の客層は、「時期により異なりますが、夏はレジャーの方が多く、年末年始はロンドン在住の方が帰国されるといった特徴があります。商業渡航される方は年間を通じていらっしゃる傾向です」と、大野さんは説明する。
20年前に研修でロンドンに半年間赴任していたという大野さんは、「当時は日本人のお客様ばかりでしたが、現在は15-20%くらいが英国のお客様です。日本のレジャー需要だけではなく、こちらから団体でお乗りになる方もいらっしゃいます。個人の方はお仕事ではエコノミーの方もいらっしゃいますが、ビジネスやファーストに乗られていますね」と、英国をはじめとする外国人客が増えているという。
「目的地に着いてからがお客様にとって本番なので、過ごしやすさは大事です。ビジネスクラスに求められる過ごしやすさも、お客様によってさまざまで、個人用モニターにノートパソコンをつないでお仕事をされる方や、扉が閉まっているだけでよく眠れるという方もいらっしゃいます」と、新しいビジネスクラスは、乗客が自分自身の過ごしやすい使い方ができるシートというのが、現在の反響のようだ。
また、新しいビジネスクラスでは、スーパーなどの鮮魚売場で魚がおいしくみえるものと同じようなライティングにしたという食事灯など、照明にもこだわった。「照明がいいよねと、気がついてくださるお客様もいらっしゃいました」と、大々的にアピールしていない部分も、乗客が良さをわかってくれることもあったという。
一方で、これだけビジネスクラスが進化すると、ファーストクラスは不要ではないかという声も聞かれ、海外ではファーストを廃止する航空会社もあるほどだ。大野さんはファーストが求められる点について、「究極の過ごしやすさ、を求められているのかもしれません。目的地も出発地も忙しく、せめて機内はくつろぎたいのではないでしょうか」と、多忙な乗客の気持ちを察する。
「従来のシートから10年くらいたち、どのクラスもひとクラスずつ上がっている感じですね。エコノミーも電源コンセントが当たり前で画面も大きくなっています」と、エコノミーからファーストまで、全体的に快適性が向上しているという。
30周年迎えたロンドン線
年間を通じて平均搭乗率が9割に達するロンドン線。乗り継ぎ客よりは、ロンドンが最終目的地という乗客が大半だと、大野さんは説明する。「ロンドンが目的地の方が9割くらいで、残り1割はここからポルトガルのリスボンやスイス、スコットランドのグラスゴーやエジンバラ、アイルランドのダブリンに乗り継がれる方が多いです」と、欧州の金融の中心地とあって、ダブリンのような金融業が盛んな都市も挙がった。
大野さんが研修でロンドンに赴任していた20年前は、「ジャンボで成田から2便、関空からも来てました。現在はロンドンを目的地にする方が多いですが、最初に入って欧州内を何カ国か回られたり、最後にロンドンで仕事を終えて帰国されるというように、私たちも欧州のネットワークが増えてきたので、だいぶ変わってきました」と、利用の仕方に変化が見られるという。
そして、1989年7月22日に成田-ロンドン線が就航し、今年で30周年を迎えた。大野さんによると、かつてANAで働いていたOBやOGにも声を掛け、30周年のイベントを開いたといい、現在も働き続けている英国人スタッフもいるという。ロンドンはANAにとっても欧州ビジネスの中心で、取材に訪れた時は隔月で欧州7空港の担当者がひとりずつ集まる会議が開かれていた。
「ロンドンが欧州の業務課にあたる業務を担っていて、7空港の共通課題や、欧州ならではの課題などに取り組んでいます。今年はポルトガルやイタリア、ギリシャなどのチャーターをやっているのですが、誰が応援に行くかといったことも決めています」と、大野さんは欧州のまとめ役としても多忙な日々を送っている。
「同じ国ならすぐ会えますが、欧州とはいえ別の国ですからね」と、普段の電話などによる会議だけではなく、フェース・トゥ・フェースの会議も大切だという。
ロンドン線の現在の運航スケジュールについて、大野さんは「夕方着いてゆっくり休んで、帰りは夕方まで市内で過ごせるので、ベストではないかと思います」と自信を示す。
「お客様に選ばれるためには、定時性や過ごしやすさといった基本的なことを、欧州の中でいかに高めるかです。そして、欧州の就航地も増えたので、イレギュラーが発生した場合にどういうサポートをさせていただけるかも重要だと考えています」と、今後のあり方を語った。
こうした中、さまざまな乗客のニーズを踏まえた新しいビジネスクラスは、ロンドン支店にとっても心強い存在と言えそうだ。
*新ビジネスクラスの搭乗記前編はこちら。
羽田-ロンドン線の運航スケジュール
NH211 羽田(11:35)→ロンドン(15:25)所要時間12時間50分
NH212 ロンドン(19:00)→羽田(翌日15:50)所要時間11時間50分
関連リンク
全日本空輸
搭乗記・ANA新ビジネスクラスTHE Room
前編 幅広シートでリビングのような個室空間
後編 iPhoneがリモコンになる4Kモニター
写真特集・ANA新777-300ER
(1)43インチ4Kモニターと引き戸付き個室ファーストクラス
(2)ドア付き個室ビジネスクラス
(3)世界最大の個人モニター備える1列10席エコノミー
(4)木目調パネルで落ち着いた空間
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