6月から国内での訓練飛行がスタートした日本航空(JAL/JL、9201)のエアバスA350-900型機。9月1日から国内線の中でも特に競争が激しい羽田-福岡線に就航し、「日本の伝統美」を表現した客室で他社との差別化を図る。
JALがエアバス機を受領するのは、統合前の日本エアシステム(JAS)が発注した中型機A300を除くと初めてで、ロールス・ロイス製ジェットエンジンも初導入。座席数は3クラス369席で、ファーストクラスが12席、クラスJが94席、普通席が263席となり、全クラス全席に電源コンセントと充電用USB端子、個人用モニターを備える。
A350の特徴のひとつが、静かな客室をはじめとする機内の快適性だ。この最新鋭機に責任者として乗務する機長からは、どのように見えるのか。A350運航乗員部で部長を務める福岡県出身の立花宗和機長に、福岡空港で話を聞いた。
—記事の概要—
・実践的なA350の訓練
・舞台装置をコントロールする側
実践的なA350の訓練
「今までは全部覚えて演技してください、という訓練だったとするならば、A350の訓練はかなり実践的。これができれば、ややこしいことが起きても安全に戻れる、という感覚をみんな持っていると思います」と、立花さんはA350の訓練を評価する。
JALがA350の導入を決定したのは、経営破綻から2年後の2013年。A350を導入したことで、これまでボーイング機の訓練に慣れ親しんできたJALのパイロットたちは、新しい視点で訓練内容を見直すことにもつながった。
777から787を経てA350に移行した立花さんは、エアバスの訓練だけではなく、仕事場であるコックピットの進化も高く評価している。「いかにペーパレスにするかにこだわりを感じます。エンルートチャートも横のモニターに出せるので、情報集約は相当がんばって仕上げていると感じました」と話す。
A350第一印象は、外観について「真っ白い機体に、JALの赤いカラーリングは、他社のA350と比べても相当いいんじゃないかと感じました」と笑顔を見せる。一方で、コックピットやシミュレーターは「中に入ると、あれをやらなきゃ、これをやらなきゃと、仕事場なので戦闘モードになってしまい、感慨を持って眺めるものではなかったです」と、エアバスの工場がある仏トゥールーズを訪れた時のことを振り返った。
JALのA350は777の後継機。18機の標準型A350-900が主に国内線用777-200の、13機の長胴型A350-1000が長距離国際線用777-300ERの後継となる。このほかにオプション(仮発注)で25機購入する契約を結んでおり、最大56機導入計画だ。JALにとって、A350は統合前の日本エアシステム(JAS)が導入したA300-600R(退役済み)に続くエアバス機だが、サイドスティックを採用した同社機を運航するのは初めてで、初のエアバス機導入と言っても過言ではない。
「A350が初めてのエアバス機というエアラインは、うちが初めてだと思います。A330を持っていれば再訓練でタイプレーティングチェックを受けなくても飛ばせるので、大型機の移行訓練をこれだけの規模で入れるのはエアバスにとって初めてではないでしょうか」と、立花さんは話す。確かにすでにA350を導入しているキャセイパシフィック航空(CPA/CX)やフィンエアー(FIN/AY)などは、A330のオペレーターでもある。
6月13日にトゥールーズで開かれた初号機のデリバリーセレモニーには、立花さんも植木義晴会長らとともに出席していた。そして6月29日からは国内での訓練飛行が始まり、9月1日の就航初日向けてパイロットの訓練が続いている。立花さんもA350のタイプレーティングを取得済みで、今後は9月以降にA350の機長資格を得ることになる。
「まずは教官を育てることが優先です。あまり部長は重要ではないので(笑)、教官が活躍できるようにしていくことが大事です」と、自らの機長資格取得が後回しになっている理由を話した。
舞台装置をコントロールする側
福岡出身の立花さんは、戦国時代から江戸時代にかけて活躍した武将、立花宗茂の子孫で、立花家は約400年続く。宗茂が治めていた柳川や、立花城があった立花山など、福岡のフライトはゆかりの地の上空を飛ぶことになるという。「個人的なことなので人様に申し上げることではないですが、福岡空港は板付空港と呼ばれていたころから馴染みがあり、光栄なことです」と、A350初の就航地に福岡が選ばれたことを喜ぶ。
「国内の基幹空港として、福岡はすごく重要な拠点だと感じています。博多との距離感も、こんなに便利な都市空港はないだろうという空港です」と福岡空港の地の利の良さにふれ、A350就航を契機に、訪日外国人の九州への送客にもつなげたいという。
幼少のころからテニスが好きで、大学の先輩がパイロットになったことをきっかけに興味を持ったという立花さんはJALに入社後、在来型747、737-400、747-400、777、787と操縦桿を握り、A350にたどりついた。「当時は50歳をすぎていたので、787で終わるんだろうなと思っていました」と、A350への機種移行が決まった当時を振り返る。
「パイロットは扉の向こうで、安全に飛ばすのが当たり前。あとは客室乗務員がしっかりおもてなしできるよう、舞台装置をコントロールする側です」と、パイロットの仕事をこう表現する。
「飛行時間が短い国内線ではそこまで感じることはないかもしれませんが、機内高度を低くできることや、静かさがA350の特徴です。お客様がリラックスして機内で過ごしたり、機内エンターテインメントを楽しめるようにする、フロアマネージャーのような役割がわれわれの仕事だと思います。いろいろなエアラインがある中で、選んでよかったと思っていただけるお手伝いをするひとりだと自覚しています」と話した。
では、立花さんが考える、これからのパイロット像はどういうものだろうか。
「好奇心がある人は強いと思います。訓練も厳しいし、覚えることもたくさんありますが、60メートルもある機体を自分の意のままに飛ばせたりと、なかなか普通のお仕事をされている方には経験できることではないので、やりがいのある仕事だと思います。一方で、パイロットの仕事を好きすぎると、会社が教えたいことが伝わらない場合もあります。バランスの良い人が、これからの時代に一番イケてるパイロットではないでしょうか」と、バランス感覚の大切さにふれた。
福岡への商業運航初日となる9月1日、A350運航乗員部の部長である立花さんが、パイロットとして初便を操縦することはないという。「初便は部長がという考え方もありますが、フルのパフォーマンスで飛べる機長同士で乗務させます。最高の品質を提供しなければいけません」と断言した。
これまでよりも日本の伝統美を前面に打ち出した、空の旅の舞台装置は、まもなく就航する。
関連リンク
A350就航記念特別サイト(JAL)
写真特集・JAL A350-900福岡公開
(1)ファーストクラスはゆとりある個室風(19年8月18日)
(2)クラスJは新レッグレストで座り心地向上(19年8月19日)
(3)普通席も全席モニター完備(19年8月24日)
(4)大型モニター並ぶコックピットや落ち着いたラバトリー(19年8月25日)
機内から撮影した離着陸や機内(YouTube Aviation Wireチャンネル)
・JAL A350 訓練飛行中の機内(ファーストクラス、成田→新千歳)
・JAL A350 成田離陸(機内から見たJA01XJ 訓練飛行)
・JAL A350の機内(ファーストクラス→クラスJ→普通席)
訓練飛行公開
・JAL、A350訓練飛行公開 9月に羽田-福岡就航、離着陸時も静かな機内(19年8月28日)
福岡でも機内公開
・JAL、A350機内を福岡で初披露 初便招待クイズも(19年8月1日)
国内で訓練飛行開始
・JALのA350、初の福岡訓練終え関空へ(19年7月20日)
・夜の福岡に初飛来 写真特集・JAL A350福岡フィットチェック(19年7月21日)
・JALのA350、福岡に初飛来 訓練で新千歳から(19年7月19日)
・JALのA350、訓練飛行スタート 羽田を出発(19年6月29日)
・北九州と新千歳、成田初飛来 JALのA350が訓練飛行(19年6月29日)
・JALのA350、訓練で関空と中部初飛来へ(19年7月6日)
写真特集・JAL A350-900
ファーストクラス編 マッサージ機能付き電動シート(19年6月25日)
クラスJ編 ワインレッドと黒のツートンカラー(19年6月26日)
普通席編 全席モニター完備、コンセント使いやすく(19年6月28日)
コックピット編 サイドスティックと大型画面並ぶ(19年6月30日)
羽田で公開
・JAL、A350の機内公開 デザインに日本の伝統美、大型収納棚も(19年6月20日)
・JAL、A350オプション行使へ 赤坂社長「タイヤ交換でもしたい」(19年6月20日)
特集・JAL A350初号機受領
離陸編 翼を振りトゥールーズをフライパス(19年6月15日)
デリバリー編 鶴イメージしたバレエでお披露目(19年6月15日)
9月1日就航
・JALのA350、羽田-福岡線に9月1日就航 3号機まで特別塗装(19年4月4日)
飛行試験機の搭乗記
・「静かで快適」は本当? エアバスA350に乗ってみた(14年11月21日)