夏休みの繁忙期もピークを迎えている。今年は「空飛ぶウミガメ」こと、全日本空輸(ANA/NH)のエアバスA380型機就航などを契機に、ハワイ旅行が改めて注目されているといえるだろう。私の周囲で金融機関に勤めている人からも、夏の家族旅行はA380に乗ってハワイへ行きたいという人の話を耳にした。一方で、ビジネスクラスの特典航空券をゲットするのはかなり競争率が高いようで、話を聞いた1人はハワイ行きを断念し、別のリゾート地へ向かうという。
ANAはA380を成田-ホノルル線に投入。5月の就航当初は週3往復だったが、7月からは週10往復化。週14往復(1日2往復)ある同路線の大半がA380による運航になった。座席数は4クラス520席で、ファーストクラスが8席、ビジネスクラスが56席、プレミアムエコノミーが73席、エコノミーが383席と、従来のボーイング787-9型機(3クラス246席:ビジネス40席、プレミアムエコノミー14席、エコノミー192席)と比べると1便あたりの提供座席数は2.1倍に増えた。それでも、ピーク期にビジネスクラスの特典航空券を入手するのは難しいようだ。
当紙では、4年前の2015年からANAのA380導入に関する話題を追ってきた。昨年は外観の塗装作業を終えたお披露目「ロールアウト」も取材し、今年3月20日の初号機引き渡し前の1月には、独ハンブルクでANAの社員による大掛かりな最終確認作業にも密着した。週10往復化初日の7月2日には、ホノルルで2機のA380がそろう姿を当紙初の空撮で収めている。搭乗記は、今回は初便で課題となっていたサービスの改善状況などを含め、往路を取り上げた前編を掲載済みだ。
後編の今回は、ホノルルから成田への復路を中心に取り上げる。往路はメインデッキ(1階席)のエコノミークラスで、今回はアッパーデッキ(2階席)のプレミアムエコノミー。しかし、A380の売りはビジネスクラスでもあるので、これでは意味がない。取材をANAに依頼する段階で交渉し、どうにかビジネスの様子も撮ることができた。
—記事の概要—
・プレエコ席数は787の5.2倍
・気になるトイレの数
・知名度向上するか
*前編はこちら。
プレエコ席数は787の5.2倍
前述のように、初便就航の時点ではA380は週3往復運航だった。このため、5月24日金曜日にホノルルへ到着し、ホノルル発初便を取材後は、26日(日)までA380の出発便がない。
復路を取材する26日は、まずダニエル・K・イノウエ国際空港(旧称ホノルル国際空港)周辺の撮影スポットへ向かい、成田からやってくるホノルル行きNH184便(登録記号JA381A)の着陸を撮影し、その後に空港のチェックインカウンターへ向かった。アッパーデッキを取材するのは、折り返しの成田行きNH183便。ラウンジはA380就航に合わせて用意されたANAの自社ラウンジで、プレミアムエコノミーの乗客もファーストクラスやビジネスクラスと同じく、アッパーデッキに直接搭乗できる。
メインデッキのエコノミークラスの乗客は、ラウンジを利用した場合は再び階下の搭乗口へ向かう必要があるが、プレエコの乗客はラウンジからそのまま搭乗できるのはメリットだ。ただし、A380対応の搭乗口のうち、ラウンジから直接搭乗できるのはC4搭乗口のみなので、ラウンジからやや離れたC9搭乗口の場合は、移動時間も念頭に過ごす必要がある。
PBB(搭乗橋)から機内に入ると、ビジネスクラスを通ってプレエコへ。787-9では1列2-3-2席が2列で14席とわずかだが、A380はアッパーデッキ後方に73席もある。席は広いが空間は狭いという、プレエコのイメージを打破するものだ。
A380のプレエコも2-3-2席配列で、シートピッチは38インチ(約96.5センチ)と、エコノミーよりも4インチ(10センチ)広い。個人用モニターはクラス世界最大の15.6インチのタッチパネルタイプで、約90度回転する大型テーブルやレッグレスト、フットレストを装備した。
プレエコのテーブルはこれまで、エコノミークラスのように前席から倒して使うタイプが主流だった。こうしたシートは、窓側や中央の通路に面していない席の人が通路に出にくいことから、ビジネスクラスのようにテーブルが回転するタイプのものを採用した。
今回私が座ったのはC席で、通路側だった。窓側席はシートと壁の間に収納スペースがある。隣に座った男性客は旅慣れた人で、「これ便利ですよね」と、手元に残したい荷物を収納スペースにいれ、カバンを頭上の手荷物収納棚(オーバーヘッドビン)にしまっていた。
テーブルは1枚ものなので、中央で折りたたむタイプと違ってたわみがない。ノートパソコンを置いてもグラつくことがなかった。隣席の方とは取材で席を離れている時以外、成田までいろいろとお話を伺っていたが、個室感を重視する最近のビジネスクラスとは違い、家族や友人と会話を楽しみながら旅をしたい場合は、上級クラスの中ではプレエコという選択肢も良いのでは、と感じた。
気になるトイレの数
シートの進化よりも、A380の場合はプレエコという、他機種では狭い空間に詰め込まれたようなエリアが、非常に広々としていたことが印象的だった。
一方で、気になったのはラバトリー(化粧室)がプレエコのエリアには1つしかない点だ。このため、プレエコのトイレが混雑している場合は、クラス区分上は同じである階下のエコノミーのラバトリーを使うしかない。使い勝手で気になったのはこのくらいだ。
ファーストやビジネスと同じアッパーデッキを、両クラスに比べれば安価に体験できるプレエコ。前出の隣席の方も離陸してすぐに言っていたが、機内は静かだ。A380は静粛性が777などと比べると向上しており、余裕のあるアッパーデッキのシートでゆったり過ごすのに適している。
知名度向上するか
A380の機内よりも気になったのは、ホノルルでのANAやA380の知名度だ。ホテルから空港へ向かう際、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)といったライドシェアサービスを3回ほど使ったが、運転手から「エアラインは?」と聞かれて「ANA」と答えても、一度もANAを知っているドライバーには当たらず、「デルタとユナイテッドの間で降ろして」「ユナイテッド」と、ANAのカウンターに近い米系航空会社の名前を伝えることになったことだろう。
A380の着陸を撮影後、空港まで乗せてもらったLyftのドライバーは、エアライン名を聞く以前に、JALのチェックインカウンターを何の疑問も感じずに目指していたので、これが就航65周年を迎えたエアラインとの知名度の差なのかと感じた。UberやLyftのドライバーは、地元で暮らす人たちだからだ。
ハワイ路線は、ほとんどが日本発需要だ。ローカルの人たちに知られていなくても、航空券販売という部分では、そこまでのディスアドバンテージにはならないだろう。しかし、観光需要全体で見ると、ANAがハワイでのビジネスを有利に展開していく上で、知名度に課題があるのは言うまでもない。
A380で大挙して日本人がやってくるこの夏。ANAのハワイでの知名度がどの程度向上するかが気になるところだ。
(おわり)
*写真は32枚。
*前編はこちら。
*プレエコの写真特集はこちら。
*成田離陸とホノルル着陸の動画はこちら。
関連リンク
#hawaii24(ANAの特設サイト)
全日本空輸
Airbus
エアバス・ジャパン
搭乗記・空飛ぶウミガメ ANA A380
前編 「ほかの飛行機より静かだよね」(19年7月22日)
成田離陸とホノルル着陸の動画
Aviation Wireチャンネル(YouTube)
空撮・ホノルルに2機そろうANA A380
初号機編 2号機待つハワイへ到着(19年7月7日)
2号機編 エメラルドグリーンの海渡り成田へ(19年7月9日)
【空撮】ホノルルに2機揃う
・【空撮】空飛ぶウミガメ、ホノルルに2機揃い踏み ANAのA380、週10往復に(19年7月3日)
独ハンブルクで最終確認
・「みんなをヒヤヒヤさせた」カウチシート 密着!ANA社員のA380最終確認(19年6月11日)
2機のA380が本格稼働
・ANAのA380、週10往復に 成田-ホノルル、2機本格稼働(19年7月3日)
写真特集・ANA A380 FLYING HONUの機内
(1)個室ファーストクラスでプライバシー確保(19年5月21日)
(2)ペアシートもあるビジネスクラス(19年5月22日)
(3)2階後方にゆったりプレエコ(19年5月23日)
(4)カウチシートもあるエコノミー(19年5月24日)
2号機
・ANAのA380、2号機も就航 7月から週10往復に(19年6月19日)
・ANA、空飛ぶウミガメ2号機成田到着 深緑のA380、6月に就航前倒し(19年5月18日)
初便就航
・ANAのA380、ホノルルからも初便出発(19年5月25日)
・ANA、A380就航 空飛ぶウミガメ、成田からハワイへ(19年5月24日)
ホノルルのラウンジ公開
・ダイヤモンドヘッドやA380眺めて食事 写真特集・ANAホノルル新ラウンジ(19年5月26日)
・ANA、ホノルルのラウンジ公開 A380の2階直結、ダイヤモンドヘッド一望(19年5月9日)
ホノルルでフィットチェック
・ANAのA380、2回目のホノルル飛来 2階席へ機内食搬入確認も(19年5月9日)
・ホノルルにA380到着 ANA「空飛ぶウミガメ」ハワイ初飛来、地上施設確認(19年4月18日)
・ANAのA380、ホノルルへ 搭乗橋など現地確認(19年4月17日)
機内公開
・ANA、空飛ぶウミガメA380公開 ファーストクラスやペア席ビジネスも(19年4月23日)
成田へ初号機到着
・ANA、A380「フライング・ホヌ」成田到着 片野坂社長「乗った瞬間ハワイ感じられる」(19年3月21日)
・ANAのA380、トゥールーズ離陸 成田へ(19年3月21日)
・ANA、A380初受領 総2階建て、5月から成田-ホノルル線(19年3月21日)
ANAのA380
・ANA、A380お披露目 空飛ぶウミガメ、ハンブルクでロールアウト(18年12月13日)
・ANAのA380、成田-ホノルル19年5月就航 7月に2号機(18年11月27日)