エアライン, 解説・コラム — 2018年6月30日 17:55 JST

「CAの改善要望でもっと良いサービスを」特集・地上で働くJAL客室乗務員(終)調達担当・秋山恭子さん

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 前回のつづき。日本航空(JAL/JL、9201)の客室乗務員の中には、地上で2年から3年ほど勤務する人もいる。地上で働くJAL客室乗務員特集の最終回となる第3回目は、総合調達部客室・ラウンジサービスグループのアシスタントマネジャー、秋山恭子さん。第1回目の上松可奈子さんと第2回目の飯塚康子さんからは、乗務に戻る直前に話を伺ったが、秋山さんは2017年11月から今の部署で仕事をしており、まだ1年に満たない。

 秋山さんの所属する調達部門は先の2人とは異なり、制服を着用して会社をPRする部署ではもちろんない。なぜ現役の客室乗務員が、この部署で仕事をしているのだろうか。

機内食関係の機用品の調達を担当している秋山さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 秋山さんも飯塚さんと同じく、既卒でJALの客室乗務員になった。旅行会社で1年ほど働いて転職したが、調達関連の業務経験はゼロ。「調達って何? というところから始まりました」と、異動が決まった瞬間を振り返る。

—記事の概要—
機内食関係の機用品を一手に担当
「どんな仕事か想像できなかった」
会社が求めるCAの声

機内食関係の機用品を一手に担当

国際線ファーストクラスの機内食。これらの食器類の調達も秋山さんの仕事だ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 秋山さんが航空業界を意識し始めたのは、高校生のころ。観光に関する仕事に興味を持ち、大学3年生で留学したことで旅行会社に入った。「旅行と飛行機、体を動かすことが好きです」という秋山さんは、冬の既卒採用試験を受け、第2新卒として入社した。

 成田空港を起点に、ロサンゼルス線やシカゴ線、フランクフルト線、サンディエゴ線などのフライトを担当していたが、異動前のラストフライトを実感する間もなく、東京・天王洲にあるJAL本社が新しい職場になった。

 「現在の仕事では、機内食関係の機用品を全部担当しています。自分がフライトで使っていた紙コップやグラス、トレー、トレーに敷くマット、食器と、消耗品も含めてすべてです」と、秋山さんは担当業務を説明してくれた。

 主な仕事の流れはこうだ。まず、機内サービスの企画部門が、サービスの方針を決める。これに合わせて、秋山さんが食器などの機内に搭載する「機用品」を選定し、発注する。

 「こういった商材がいくつ必要なので、こういうものが必要だ、というように機用品を選定して発注します。中には海外のサプライヤーもあるので、通関手続きの依頼をしたり、契約書の管理もやっています」と、これまでのフライトと共通点を挙げるとすれば、機内食というキーワードぐらいしかないほど、畑違いの仕事だ。

 契約は原則として年に1回更新し、新しいサプライヤーとは契約書を交わす。ファーストクラスからエコノミークラスまで、機内で必要とするものはクラスごとに異なるものがほとんどなので、多くの種類のものを大量に扱う。

 「調達は飛行機のように大きなものを含め、JALで使うものをすべて扱っています。機用品の特徴は、数がものすごく多いことですね。機内で自分が使っていたものばかりなので、品番で何に使っているのか、どこに使っているのかを把握できるのはラッキーでした」と、調達の仕事とフライトには接点もあった。

「どんな仕事か想像できなかった」

機内食関係の機用品の調達を担当している秋山さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 秋山さんに調達へ異動する辞令が伝えられたのは、2017年11月に異動する10日ほど前だった。「調達と聞いても、自分がどんな仕事をするのか想像できなかったですね」と話す秋山さんは、異動前のラストとなったフランクフルト線のフライトも、当面乗務できなくなるという実感もないまま迎えたという。

 フランクフルト線の乗務後は、同じグループの客室乗務員に異動を祝ってもらったという秋山さん。フライトに合わせて出社する生活から、ほぼ決まった時間帯に出社する生活パターンに変わった点も、戸惑いがあった。

 「今までは長くても4日働くとお休みでした。最初は5日間働くのが長く感じて、水曜日にはつらくなるくらいでしたが、しばらくすると慣れました」と笑う。「朝が早い時でも、6時起床くらいなので、フライトでは夜中の3時に起きたり、遅く起きたりしていたのと比べると、体は楽になりました」と、体調管理が勝負とも言える客室乗務員の日常とは違うものになった。

 「フライトから降りて感じたのは、9時-5時で働いている方は、こんなにも自分の時間が少ないんだなと思いました。客室乗務員は4日フライトがあっても、前後や間にお休みがあるので、自分の時間はすごくあったなと感じますね。その代わり、フライトはすごく疲れるので、睡眠時間に取られていました」と、生活のリズムの違いを実感する。

 フライトと大きく異なるのは、常に複数の仕事を同時並行で進めることが多い点だと、秋山さんは話す。「いろいろな計画を並行して進めることに慣れていなかったので、最初のうちは、こっちをやるとあっちを忘れてしまう、ということもありましたね(笑)」と、1つの便に乗務することで区切りがつく今までとの違いに戸惑ったそうだ。

会社が求めるCAの声

インタビューしたJAL客室乗務員の(左から)上松さん、飯塚さん、秋山さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 調達の仕事を通じて、フライトにフィードバックできるものも、徐々に増えてきたという。そして、フライトで感じていた改善点を社内で共有すれば、より良いサービスができるのでは、と秋山さんは感じている。

 「アイデアを出し合って検証して、やっと完成したものが機内に載ってくるのですが、客室乗務員が5000人以上もいると、それぞれがいろいろな意見を持っています。私もあれが使いにくい、これが使いにくいと言うものの、実際に改善を提案することは正直ありませんでした。もっと機用品に愛情を持って、意見があるなら社内の報告制度を活用して搭載方法を変えて欲しいなどと、提案すべきだと感じました」と打ち明けた。

 こうした現場からの改善要望は、調達や機内サービスの企画部門も欲している情報だ。「客室乗務員が改善を提案し、企画や調達が現場の状況を今以上に知れば、もっともっと良いサービスができる可能性があると思います」と、調達担当として機用品に接したことで、見えてきたものがあった。

 秋山さんのように、客室乗務員でなければわからない知識を生かして、地上で働く社員は調達部門以外にもいる。JALによると、客室乗務員の地上勤務はデスクワークを経験させるためではなく、業務改善に不可欠だと判断して、徐々に対象が増えてきた結果だという。

 上松さんや飯塚さんのように、いつかは秋山さんもフライトに戻る。地上で働く客室乗務員たちの活躍で、より良いサービスと、より客室乗務員自身が働きやすい機内を実現して欲しいものだ。(おわり)

関連リンク
日本航空

特集・地上で働くJAL客室乗務員(全3回)
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第2回 「活動の理解者増やす発信も重要」CSR担当・飯塚康子さん(18年6月16日)

過去に取材した地上勤務の客室乗務員
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