エアライン, 解説・コラム — 2018年3月31日 06:00 JST

ANA平子社長、ロボットと人「仕事の棲み分けで成否決める」

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 ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下の全日本空輸(ANA/NH)は、米国の民間航空業界の月刊誌「エア・トランスポート・ワールド(ATW)」誌が選出する2017年の「エアライン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。過去1年間に優れた業績を残した航空会社に贈られるもので、3度目の受賞となった。

 今後、4度目の受賞に向け、何をすべきか。ANAHDの中期経営計画で示している、国際線のホワイトスポット(未就航地)や、傘下のLCC、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)とバニラエア(VNL/JW)の統合による路線移管の可否など、間もなく就任1周年を迎える平子裕志社長に、エアライン・オブ・ザ・イヤーの授賞式会場となったアイルランドのダブリンで聞いた。

ダブリンでインタビューに応じるANAの平子社長=18年3月27日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

—記事の概要—
「現場主義貫きたい」
IT・ロボットと人間の「仕事の棲み分け」
「LCCへ路線移管しない」

「現場主義貫きたい」

17年度の新入社員と写真に収まる社長就任初日の平子社長(左から4人目)=17年4月1日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

── 2017年4月1日に社長に就任して1年が経過した。振り返ってみてどうだったか。

平子社長:1年間、社長職を必死でこなしてきた。過去にもやったことない仕事なので、手探りだった。社長に就任したときにお話ししたように、「現場が大事」ということを念頭に置いている。現場をしっかり見る。声を聞くことがますます大事だと言うことを強く思っている。

 これから先も現場主義を貫きたい。

── 「現場主義」の具体的な事例としては。

平子社長:現場に行って直接対話して、自分のメッセージに込めることもある。前の週に起きた、オペレーション上の事例などをレビューする機会がある。再発や未然に防ぐために何をすべきか議論して、しかる部署にお願いすることもある。

 月に1度、全員にメッセージを出している。その中に、いまの考えを示している。そのメッセージに対し、社員が自由に返信できる仕組みになっている。読んだ感想とか、彼らのアイデアを私がいただくこともある。

 (就任以降)何でも言えるような雰囲気作りをしてきたつもりだ。メッセージに対し反応してくれる社員も多い。過去にはそういうケースがなかったと聞いている。そういう意味では、新境地を開いたのではないか。

IT・ロボットと人間の「仕事の棲み分け」

ダブリンで開催した第44回ATWエアラインアワードの表彰式=18年3月27日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

── 4度目以降の「エアライン・オブ・ザ・イヤー」獲得に向け、どのような点を伸ばしていきたいか。

平子社長:2017年は、決算が非常に良かった。財務基盤が強化されたことが評価された。英スカイトラックス社から、6年連続で5スターを獲得した。社外の機関から、私どものクオリティを評価していただいた。

 (エアライン・オブ・ザ・イヤーの)4度目は、どこの航空会社も獲得していない。ハードルは非常に高い。これまでと同じようなことをしていては、4度目に手が届かない。もっと高いレベルに持っていくしかない。

 エアライン・オブ・ザ・イヤーを3度、5スターを6年連続で受賞した。ありがたく光栄に思う。今後はいまの水準に留まることなく、どうすればいいのか、自ら考えるステージに入ってきている。進歩することをお約束する。

 中期経営計画で、「他に比肩できないくらいのサービスをしていこう」と言っている。それを皆で考えていこうとしている。従来の延長線上の発想と言うより、それを飛び越えた「新しいアイデア」を出してくことが求められていく。

 具体的には、Society 5.0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みを進めていく。将来の人口減少や労働力不足に、航空会社としてどのように解決できるのかを考えて行かなければいけない。パイロットや客室乗務員は、人間でなければできない仕事で、それを減らすわけにはいかない。「人間にしかできない仕事」をしっかり定義していくことに重点を置く。

── ITやロボットができるところは、それらに任せる、ということか。

平子社長:「仕事の棲み分け」を考えるのは人間。これは機械ではできない。これが意外と骨の折れる仕事で、単純に「IT化」「AIの活用」というが、どの分野に活用するかが難しい。各社によって、それらの考え方に差が出てくる。この巧拙が将来の成功の成否を決めるのではないか。

「LCCへ路線移管しない」

── 中期経営計画で「ホワイトスポットを埋める」ことを示している。イタリアはアリタリア-イタリア航空(AZA/AZ)との提携で埋まった。スペインや中東など、そのほかの地域はどのように埋めるのか。

平子社長:スペインは直行便がないものの、ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)とのコードシェアで就航している。中東やモスクワは、需要がまだ熟していない。中東の場合、中東以遠とのバランスが重要だ。どのような形であれ、将来、どのように乗り入れるかを、自社運航便のほか、他社との提携でコードシェア(共同運航)も考えている。

 JV(共同事業)はいいスキームだ。高度に活用することで、ANAの便名で就航し、収入の分け前もスキーム内であれば享受できる。

ピーチへのバニラ統合を発表し握手を交わすANAホールディングスの片野坂社長(中央)とピーチの井上CEO、バニラの五島社長=18年3月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

── ANAHD傘下のピーチとバニラが統合する。フルサービス航空会社(FSC)して現在の路線を、LCCに移管することで採算が合う路線はあるのか。

平子社長:うーん……。(LCC移管で採算が合うということは)赤字路線があるかどうか、ということを意味していると思う。赤字であれば、その路線を運休することになる。ここ数年では、運休路線はない。(15年夏ダイヤを最後に運休した)羽田ー大島線くらいか。LCCで飛ばした場合、機体サイズがもっと大きくなり、コストがかかる。

 これは、「LCCだから成功する、FSCだから失敗する」ということでもない。FSCは大小さまざまな機体を保有し、需要に合わせて運航する。需要が小さい路線は、ANAが飛ばすことで意味がある。(単一機種で運用する)LCCは、需要の太いところに飛ばす。FSCの市場をLCCで代替する、という考え方はない。

 仮に移管しても、LCC(ピーチ)が受けないと思う。彼らも「経営の独立性」を標榜している。「路線を押しつけられても」ということになるから。私たちも「やって」と言うつもりもない。(押しつけると)LCCモデルを根底から覆すことになる。

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