エアライン — 2018年1月8日 20:00 JST

“やっちゃいけないこと”に挑戦! JAL、小学生向け理工系教室

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 飛行機が飛ぶ仕組みを、小学生に科学や数学の視点から学んでもらおうと、日本航空(JAL/JL、9201)が体験学習プログラム「JAL STEAM SCHOOL」を開いた。JALのパイロットと技術者が講師を務め、科学と技術、工学、数学、アートの観点でカリキュラムを監修。航空力学や機体設計を、飛行機の模型で翼を組み立てながら学べるようにした。

 STEAM SCHOOLは羽田空港の格納庫内で開かれ、小学生15人が参加。パイロット歴29年でボーイング777の機長を務める靏谷忠久さんと、整備・技術部門を中心に35年の経験を持つ技術者の阿部和利さんが講師を務めた。カリキュラムも、2人が航空力学などの観点から監修した。

JAL STEAM SCHOOLで翼型を考える女の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
理系教育にアート
理数系嫌いでも好きになる?

理系教育にアート

 理工系人材を育成する教育として、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をつなげた「STEM(ステム)」教育が、世界各国で行われている。JALでは、これにArt(アート)を組み合わせ、「STEAM(スティーム)」とした。また、Scienceは「航空力学」、Engineeringは「機体の構造」と捉え、航空会社の発想でカリキュラムを組んだという。

JAL STEAM SCHOOLで格納庫に飛行機をしまう男の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLでコンピューターが解析した機体の結果を確認する男の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回の講義では、翼の組立教材とコンピューターを使用し、飛行機と翼の関係を学んだ。最初に実際の飛行機では見られない形状の翼を作り、翼面積や後退角、翼幅、翼の取り付け位置、機体の全長が、飛行時にどう影響するかを検証。フライトを3回繰り返し、5つの要素がどのように作用しているのか、実験から航空力学を学べるカリキュラムになっていた。

 子供たちが機体設計にチャレンジする時間は約2時間。靏谷さんは、「やっちゃいけないことをやる2時間。正解がすぐあると思わないで」と語りかけ、子供たちにこれまで見たことがあるものから離れた飛行機作りを求めた。

 あえて実際の飛行機にはない翼の形状からスタートしたのは、効率良く飛ばない要因や、翼の形状が飛行機の性能にどう影響するかなどを、子供たちに発見してもらう狙いがあった。教材を組み立てた子供たちは、格納庫をイメージした検証スペースに持ち込み、自分の飛行機が飛ぶかどうかを確かめた。

 今回のカリキュラムでは、格納庫内に翼を組み立てた飛行機を入れると、コンピューターが飛行機の形状をスキャンして機体の性能を導きだし、離陸や速度、安定性にどう作用したかが画面に表示された。

 子供たちが考えた飛行機は、ファーストフライトで飛ぶ機体もあれば、斬新な発想ゆえになかなか離陸しない機体もあった。子供たちは靏谷さんや阿部さんからアドバイスを受け、トライ&エラーを繰り返し、最後は機体外観のデザインを考えた。

JAL STEAM SCHOOLで子供たちに語りかける靏谷さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

理数系嫌いでも好きになる?

 子供たちが作った翼の形状を見た阿部さんは、「翼と翼を重ねるなど、私たちが考えないようなことを、すぐにやっていましたね。組立教材を企画した段階では、翼の組み合わせは数千通りと考えていたのですが、今日できたものには初めて目にした形もあり、何万通りかもしれない」と喜ぶ。

JAL STEAM SCHOOLで子供たちにアドバイスする阿部さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 飛行機の性能を検証する「格納庫」も、実物のように機体が入っていく光景をイメージしたという。「うまく飛んでばかりでも、難しすぎても面白くない。アートをどう入れるかもポイントで、小技も使っているんですよ」(阿部さん)と楽しそうだ。

 靏谷さんによると、こうした組立教材と格納庫を核とするカリキュラムが固まってきたのは、昨夏を過ぎてからだという。「技術的にできるからこれをやろう、ではなくて、技術は後から絶対についてくるから、『これやりたい』という発想で進めました」(靏谷さん)と、発想を重視してカリキュラムを作ることにしたという。

 JALは子供向けの次世代育成プログラム「空育」を、2016年11月にスタート。飛行機や交流、環境・宇宙を通じ、さまざまな未来を考えるプログラムを提供している。今回のSTEAM SCHOOLも、空育の一環で開催した。

 空育を始めた大川順子専務は、大学では理系の学部に進み、客室乗務員としてJALに入社した。今回のSTEAM SCHOOLを、「不思議を解明して、バーチャルで飛ばす授業」と表現する。

 斬新な飛行機を考案する子供たちを見た大川専務は、「アートが大事。理数系嫌いな子でも、好きになるきっかけになるかも」と期待を寄せる。子供たちが成長した時に、飛行機に関する仕事や研究に携わって欲しいという。

*写真は18枚。

JAL STEAM SCHOOLで翼型をスキャンする格納庫(奥)と使用する組立教材=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで使用する組立教材=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで使用する組立教材=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで新しい飛行機の形を考える子供たち=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで男の子にアドバイスする靏谷さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLに参加する女の子と話すJAL社員=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLに参加する男の子と話すJAL社員=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで格納庫に飛行機をしまう女の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで機体のコンピューター解析をスタートさせる女の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで靏谷さんと機体の解析結果を確認する女の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで靏谷さんと機体の解析結果を確認する女の子=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLで子供たちと機体の解析結果を確認する大川専務(右)=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAL STEAM SCHOOLに参加した子供たち=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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