エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2012年12月22日 16:30 JST

「寝心地重視したビジネスでくつろいで」 JALスカイスイート担当者に聞く

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 2013年1月9日から成田-ロンドン線に就航する日本航空(JAL、9201)の国際線用ボーイング777-300ER型機の新仕様機「SKY SUITE 777(スカイスイート 777)」。全クラスに新シートを導入し、機内食も“空の上のレストラン”をコンセプトとして宿泊設備を備えたレストラン「オーベルジュ」を目指した。

 4クラスのうち、フルフラットシートを導入し、2-3-2配列ながらシート配置を少しずらすことで全席から通路へアクセスできるビジネスクラスはスカイスイートの目玉だ。ビジネスとしては初の寝具搭載など、新シートのこだわりを開発担当した商品サービス開発部企画グループの藤島浩一郎マネジャーに伺った。

シートをベッド状態にしてくつろぐJALの藤島さん=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 スカイスイートは世界の航空会社がしのぎを削る国際線市場に、9月の再上場以来JALが初めて投入する新仕様機。厳しい競争に打ち勝てる、商品力を持ったシートに仕上げる必要があった。「フルフラットや全席通路アクセスは、上位の航空会社では一般的になりつつあります。これらに加えて、足もとまで広いベッドなど、お客様への居住性還元を意識して開発を進めました」と藤島さんは語る。

「世界一になるには、ぜひこれで」

居住性と寝心地にこだわったビジネスクラス=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 藤島さんが最初に着想を得たのは、2009年にドイツ・ハンブルクで開かれた航空機の内装品展示会。ここで今回のビジネスクラスを手がける米B/Eエアロスペース社から、のちにベースとなるシートを見せられる。ボーイング737型機やエアバスA320型機など小型機用ファーストクラスシートのコンセプトモデルだった。

 製造はB/E社の中でもファーストクラスやプライベートジェット用シートのみを手がける「SFC(スーパーファーストクラス)」という米国アリゾナの部署が担当。ひとつ一つのシートを手作業で仕上げていく職人集団だ。

 帰国した藤島さんは、このモデルをベースに777のビジネスクラスを開発できないか、プランを温めていた。そして、10年1月19日にJALが経営破綻。3カ月ほど経った4月ごろに正式な開発がスタートしたという。

 ベースモデルの選定では、ビジネスクラスは5つほど候補があったが、藤島さんとプロジェクトチームのメンバーはB/E社のモデルで進めたいと考えていた。「世界一になるにはハードルが高くてもぜひこれでやりたい、と経営陣に頼み込んで決済をもらいました」と振り返る。

 「開発に2年かかるものなので、ここでやらないと次に立ち上がる機会が後ろにいくだけ。やるからには高い目標を目指そう、となりました」と藤島さん。新シート開発が始まり、全クラス共通のテーマとして「1クラス上」を掲げた中で、ビジネスクラスは居住性と寝心地にこだわることになった。

中央席を含む全席通路アクセスを実現したビジネスクラス=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

発泡スチロール模型で検証

ベッド状態(手前)とシート状態のビジネスクラスシート=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回のビジネスクラスは全席通路アクセスを実現しつつ、居住空間を広くした。一方で、パーティションの高さを検討して腰上は広く感じられるようにし、足もとの空間を少し広げることで居住空間のプライバシーや快適さを確保しつつ、通りやすい通路も実現している。

 こうした快適さの検証は発泡スチロールで作った模型に変更を加えながら試行錯誤を繰り返し、設計に反映していったという。また、1席だけだと隣席との感覚がわからないので、木製の壁を用意。窓側と通路側、中央の計3タイプのシートを検証した。

 シート横の壁面に取り付けるコントローラーの角度や位置は、藤島さんが自分のスマートフォンを置いて角度や見え方、ボタンを押す際の操作感を詰めていった。

 藤島さんを始め、客室乗務員や整備士など各部門の関係者がシートを体感した結果をまとめた末、コントローラーは少し角度をつけて設置するなどの方向性が定まった。ファーストクラス用のコンセプトモデルから、数倍の座席数を配置しなければならないビジネスクラスの仕様がまとまっていった。

客室乗務員の作業スペースとバーカウンターを兼用できるように改めてスペースを確保=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 シートの検討と同時に機内レイアウトも見直した。従来バーカウンターがあった場所を、客室乗務員が1食目の機内食を用意する作業スペースと、バーカウンターを兼用できるように改めたことで、1席あたりのスペースを広くしつつ、席数を最大化できた。

座り心地より寝心地を

 「今回は座り心地よりも、寝心地にこだわりました。座り心地にこだわりすぎると、ベッドとして使うフラットな状態で寝心地に影響してしまうからです」と藤島さんは語る。ベッド長は最大188cm、ベッド幅最大65cm、ベッド時の足もと幅53cmとゆとりをもたせた。また、シートを囲むパーティションの形状を四角形にしたことで、足もとに広いスペースを確保できた。

ビジネスクラス初の寝具としてエアウィーヴを採用=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 寝心地にこだわった藤島さんが導入したかったのが、ビジネスクラスでは初の寝具だった。これまではシートが完全にフラットにならなかったことに加えて収納スペースがなかったため、ビジネスでは断念していたという。

 「他社がやらないことなので、徹底的にやりたかったです」と話す藤島さん。採用した寝具は高反発のマットレスと枕「エアウィーヴ」。スポーツ選手などに愛用者が多い寝具だ。(エアウィーヴの詳細記事はこちら

 今回のビジネスクラスシート専用マットレスは腰部分を堅く、肩と足部分を柔らかくすることで背骨のS字カーブをキープして自然な姿勢で寝られる。枕も両端と中央で堅さを変えてある。枕にはシート素材が2枚入っており、好みに応じて高さを変えられる。

 寝具の色は純白を選んだ。清潔さだけではなく、クリーニングでの色落ちなども考慮してコストと快適さのバランスも考慮した。

自宅のようにくつろいで

 個室に近い構造になったため、フライト時に仕事をしたり睡眠を取るなど、多様な過ごし方が快適にできるようになった新シート。個人モニターもファーストと同じ23インチとビジネスクラスのシートでは最大で、現行の15.4インチから大型化した。

ビジネスクラス最大の23インチ個人モニターを装備=12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「行きと帰りでオンとオフがあると思います。(成田-ロンドン線は)13時間あるので、翌日がお休みの方などは徹夜してでも映画を見たいという方もいらっしゃるかもしれません」と話す藤島さんは、シートをベッド状態にして壁に寄りかかるくつろぎ方を提案。自宅のようにくつろいで欲しいという。

 再上場後初の新仕様機として1月から就航するスカイスイート。「再上場がこれほど早まるとはまったく思っていませんでした。開発時は1分1秒でも早く出したい思いで進めていました」と語る藤島さん。結果的に再上場から間をあけずに就航できたことで、完成した機内で撮影に応じてくださった藤島さんも、どこかくつろいでいる表情だった。

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