全日本空輸(ANA/NH)の運航便のハンドリングを担うANAエアポートサービスは、航空機を牽引する「トーイング・トラクター」やPBB(パッセンジャー・ボーディング・ブリッジ=搭乗橋)の訓練用シミュレーターを使った訓練を、10月5日から始めた。
航空機の牽引やPBBの運用などは、「グランドハンドリング(グラハン)」業務と呼ばれる。グラハン用シミュレーターの導入は日本初で、特にPBBのものは世界初だという。
これまでは航空機を運航していない深夜に、実機や特殊機材を使って訓練を行っていたが、訓練を実施するまでの準備や調整に時間がかかり、計画通りに進められない課題を抱えていた。また、悪天候やトラブルを体験するといった、実機では困難な訓練を行うことで、ベテランの技術や経験をシミュレーターを通じて若手に伝承していく。
シミュレーターは、東急テクノシステムとの共同開発。従来の訓練期間は、プッシュバック訓練が42日間・のべ3カ月、PBB訓練が21日間・のべ2カ月ほどだった。シミュレーター導入後は、プッシュバックが24日間・のべ1カ月、PBBは13日間で終了できるという。訓練短縮で、年間数千万円のコスト削減を見込んでいる。
羽田の訓練施設には、プッシュバックのシミュレーターを1台、PBB用を2台導入。24時間運用で、新人が一人でも訓練できるようにカリキュラムやシミュレーターを開発した。PBBのシミュレーターは、ANAが運航する機材では最長の777-300に対応。ブカカ製PBBを模したもので、駐機場は61番を想定し、昼間と夜間、晴天と雨天に対応している。
ANAエアポートサービスによると、777-300はPBBを機体左前方「L1」ドアに付ける際、ドアが見えないところから操作を始めなければならず、難易度が高いことなどから訓練機種に選んだという。
また、羽田の第2ターミナルでANAが使用するPBBはブカカ製のほかに三菱重工交通機器エンジニアリング製があるが、操作卓に液晶があるなどの理由からブカカ製をモデルにした。
両シミュレーターとも、画面にトーイング・トラクターやPBBを動かす経路を示す矢印や数値などを示す「初級モード」と、これらのアシストがない「通常モード」、アクシデントも起きる「上級モード」、アクシデントを体験する「アクシデントモード」、試験を実施する「見極め試験モード」を用意した。
採点は100点満点からの減点で、A・B・Cの3段階評価。Aは減点なしで、Bがマイナス5点、Cがマイナス21点で、合格点は80点以上のため、Cをひとつでも取ると不合格になり、90点以上で見極め試験をパスできる。
PBBを航空機に装着する際、目印になるのは機体とPBBに書かれた赤い線。この線が一直線になるよう位置合わせをすると、正しい位置にPBBが付く。ANAエアポートサービスのPBB操作の有資格者は2分以内で装着しており、新入社員は3分から4分程度かかるという。新人訓練のうち、シミュレーターは2日間となる。
新人にシミュレーターでイメージをつかんでもらい、実機では訓練できないようなイレギュラーにも対応する訓練を積むことで、訓練時間の短縮だけではなく、技術向上につなげていく。ANAエアポートサービスによると、今のところ羽田以外の空港へのシミュレーター展開は考えていないという。
*写真は18枚。
*トーイング・トラクター編はこちら。
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