空港 — 2017年9月28日 20:09 JST

成田空港、業者登録制度と相見積もり原則化 役員逮捕で中間取りまとめ

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 成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)は9月28日、元上席執行役員、栗田好幸被告が収賄容疑で7月に逮捕されたことを受け、原因分析や再発防止策の中間取りまとめを公表した。最終とりまとめは、2018年3月末までに公表する。

—記事の概要—
少額随意契約制度を悪用
社員の4分の1「風通しよくない」
業者登録制度の導入、相見積もり原則化
検問廃止で折衝した栗田被告

少額随意契約制度を悪用

収賄再発防止策の中間取りまとめを公表するNAAの夏目社長(右)=17年9月28日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 栗田被告は、2008年から9年間にわたり保安警備部門の責任者だったが、NAAの物品納入業務をめぐり、業者に便宜を図った見返りに賄賂を受け取った。6月12日に社内で事情聴取したところ認めたため、翌13日の臨時取締役会で執行役員を解任。その後、7月5日に警視庁に逮捕され、同月26日に起訴された。

 NAAによると、栗田被告は多額の借金を抱えていたという。贈賄側から金銭の贈与を受け、見返りに贈賄側の被告人が代表を務める企業から物品の発注を繰り返した。栗田被告は、部長権限で契約先や契約内容を決定できる「少額随意契約制度」を悪用。栗田被告の部下の中には、繰り返しの発注に疑問を持つ人もいたが、栗田被告は聞き入れなかったという。

 また、贈賄側の被告人の企業とは別の企業の社長からも、借金や家電製品の贈与を受けていた。この別企業はNAAが物品を調達している企業で、家電製品の価格を、ほかの物品購入代金に上乗せし、NAAに過大請求していた。

 過大請求では、男性社員1人が別企業と共謀し、家電製品の贈与を受けていたことが委員会の調査で判明した。当該社員はその後、諭旨退職した。

 栗田被告は1975年4月に新東京国際空港公団(当時)に入り、2004年2月から第1旅客ターミナル地区改修業務推進室次長、2005年6月からCS推進室長を務め、2008年7月に空港運用本部保安警備部長に就いた。

 2010年6月に執行役員就任後も保安警備部長を務め、2015年6月に上席執行役員に昇格。空港運用部門副部門長と空港運用部門保安警備部長事務取扱となり、9年にわたり保安警備部門の責任者だった。

社員の4分の1「風通しよくない」

 再発防止に向けた委員会「随意契約に係る不正行為再発防止委員会」では、原因や環境要因を分析。栗田被告の法令遵守意識が欠落していたとした。

 NAAは特殊法人であることから、社員は公務員に準ずる扱いを受け、成田国際空港会社法第18条では、役員や社員が賄賂を受け取った場合、3年以下の懲役を科すなどとしている。

 また、少額随意契約制度の不備も指摘。工事契約は250万円未満、工事以外の契約は200万円未満を、各部室長の権限で契約できる。NAAの規程によると少額の契約でも価格交渉し、報告書の作成を義務付けている。栗田被告の場合、報告書を作成せず、契約制度が部室長の権限のみで完結していた。

 栗田被告は、保安警備部門の責任者を9年間務め、社員の中で同部の業務に最も詳しい人物となった。NAAによると、部下は「黙って従っていればいい」、上長は「詳しい人物に任せておけばいい」というそれぞれの意識が醸成されていったという。

 社内の調査では、4分の1程度の社員が「風通しのいい職場」だと思っていないことがわかり、自由に意見交換ができる風土ではなかったという。経験が長い人物や、上位の役職者の意見が絶対視される傾向にあることも判明した。

業者登録制度の導入、相見積もり原則化

 再発防止に向け、10月からコンプライアンス(法令遵守)に関する講義を定期的に実施する。全役員と従業員を対象にメール配信している「コンプライアンス通信」で、9月からは犯罪事例を解説し、啓発を強化する。

 少額随意契約の制度も改善。年度内をめどに業者登録制度を導入し、調達部で情報を一元管理する。発注時に使用するシステムは、同一業者への発注が繰り返された場合、注意を常時表示するように改修する。また、10月以降は複数業者からのいわゆる「相見積もり」を原則化する。

 社内風土では、自由に意見交換ができ、見て見ぬふりをしない環境づくりを目指す。

検問廃止で折衝した栗田被告

ノンストップ入場を開始した成田空港。栗田被告も保安警備部門のトップとして関わった=15年3月30日 PHOTO: Youichi KOKUBO/Aviation Wire

 成田では2015年3月30日正午をもって、開港以来行われてきた空港入り口の検問が廃止された。NAAの夏目誠社長によると、栗田被告は警察など関係機関との折衝を「熱心に進めてきた」という。少額随意契約制度については「スピード感のあるいい制度」とした上で、「悪用されていた。反省するところもある」と述べた。

 過大請求について夏目社長は「企業としての損失を回復できたら」との条件付きで、栗田被告や退職した当該社員への告訴・告発は検討していないとした。

 今回の事件に伴い、夏目社長と、栗田被告の上司、空港運用部門長の飯島久司取締役は、それぞれ報酬月額の20%を3カ月間返上する。また、当時副社長だった斉田正己特別顧問も報酬月額の10%を3カ月間返上する。

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