北東アジアのLCCトップが一堂に会する会議「CAPA LCC イン ノースアジア サミット 2017」が6月13日、関西空港で開幕した。航空市場に特化したシンクタンクの豪CAPAが主催するもので、14日まで北東アジアにおけるLCCの現状を各社の経営者や幹部らが意見交換する。
今回のテーマは、「日本におけるLCCの展望」「日本におけるこれからの空港民営化」「デジタルLCC」など。初日の13日は、LCCターミナルの必要性、空港民営化、日本のLCCの現状などをテーマに、有識者をモデレーターとしてLCCや空港運営会社の経営陣によるパネルディスカッションが開かれた。
—記事の概要—
・空港民営化:自治体の国際線誘致「能力に限界ある」
・LCCターミナル:フルサービスも低コスト化へ
・国内LCC:LCCの市場拡大「運航回数の最大化不可欠」
空港民営化:自治体の国際線誘致「能力に限界ある」
関空には5年前の2012年3月1日、国内初のLCCとなるピーチ・アビエーション(APJ/MM)が就航。同年10月には国内初のLCC専用ターミナルがオープンし、今年1月には同ターミナルを拡張した。3月26日から10月28日までの夏ダイヤ期間中、関空のLCC就航割合は33%超になる見通し。
関空の運営権は、オリックス(8591)と仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートのコンソーシアム(企業連合)が設立した「関西エアポート」に売却され、2016年4月1日から同社が運営を始めた。国に所有権を残したまま運営権を売却する「コンセッション方式」で、契約期間は2015年12月15日から2060年3月31日までの44年間を予定している。
関西エアポートの山谷佳之社長は、空港民営化について、「民間の力で空港運営を改善するのが民営化。経営状態が良い時に、既存の経営体制のままだと本当に改善できるかと言えば、ある程度利益が出るので改善できない」と指摘。「関西エアポートは、40%をオリックス、40%をヴァンシが出資しており、対等にうまくやれるのかという声があったが、現状は非常に良い関係だ」と、両社の関係が良好であると強調した。
2016年7月1日に民営化した仙台空港を運営する、仙台国際空港会社の岡﨑克彦取締役営業推進部長は、「国内に19ある国管理空港のうち、民営化のトップバッターが仙台。2011年に起きた東日本大震災からの復興を加速する使命を負っている。交流人口の拡大をエアラインと挑戦していく思いでやっている」と、東北地方の基幹空港である仙台が民営化された意義を説明した。
2019年4月をめどに民営化するのは福岡空港。福岡県の橋本昌典企画・地域振興部理事 兼 空港対策局長は、「自治体として空港民営化に何を望んでいるかと言えば、今までの地方空港は羽田へのアクセスだった。これからは海外と地方都市が直接結ばれるネットワークが何よりも重要」と、自治体から見た空港民営化に言及した。
橋本氏は「今の空港運営形態は、滑走路の管理や着陸料は国、ターミナルは独立したターミナル会社で、路線誘致は自治体の責任でやっているところが多い。どうしても地方自治体は、国際線誘致やマーケティングの能力に限界があるので、民間の力でやることが大事だ」と語った。
LCCターミナル:フルサービスも低コスト化へ
LCCターミナルについても、議論が繰り広げられた。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のテ・オーム(Tae Hoon Oum)教授は、「既存のターミナルにキャパシティーがあるならば、LCCターミナルを建設すべきではない」と自説を述べ、既存のフルサービス航空会社(FSC)が使うターミナルにLCCを乗り入れさせることで、空港の利益を最大化できると述べた。
日本国内のLCC専用ターミナルは、2012年10月18日に全日本空輸(ANA/NH)が那覇空港貨物ターミナル内の一部施設を旅客用に改装してオープン。国内初のLCC専用ターミナルとなった。関空のLCCターミナルは同月28日にオープンし、設計当初からLCC専用として建設された国内初の施設となった。
一方、首都圏では2015年4月8日に成田空港の第3ターミナルがLCC専用としてオープン。名古屋の中部空港(セントレア)にも、2019年度上期にLCCターミナルが開業する計画だ。
成田空港を運営する成田国際空港会社(NAA)の長田太専務は、「FSCが入る既存のターミナルにLCCを入れたらどうか、という意見があったが、賃料が基本的に違う。より安く使いやすいターミナルが便利だと思う」と、LCCターミナルの必要性を指摘した。
長田専務は、「次にターミナルを作るとなれば、LCCのものを増やしたい。FSCも今までのような立派ものではなく、リーズナブルで使いやすければそれでいい、という方向に変わっていくのではないか」として、ターミナル全体の低コスト化や、航空会社が求めるターミナル像が変化していくとの見解を示した。
国内LCC:LCCの市場拡大「運航回数の最大化不可欠」
国内に4社あるLCCのうち、今年は春秋航空日本(SJO/IJ)を除く3社が参加。LCC研究を手掛ける東京工業大学大学院の花岡伸也准教授がモデレーターを務め、国内LCCの現状などに言及した。
ジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の片岡優会長は、「当初LCCを不安視したり、なかなか定着しずらかった部分はあったが、国内でLCCはまだまだ伸びる余地がある」と指摘。「日本を含め、世界各国でパイロットの人数がおいついていない状況。パイロット不足や空港のキャパシティーが課題になるだろう」と課題に触れた。
ピーチ・アビエーション(APJ/MM)の森健明副社長は、「飛行機が飛ぶ回数を最大化することが重要。ひとつは安い運賃を提供すること。関空のように24時間空港であらゆる時間帯に飛んでいること。もう一つは旅行しようかな、という気持ちにさせることだ」と述べた。「この3つを増やしていくと、仮に日本の人口が減っても訪日外国人客が増え、日本人が飛ぶ回数が増えることの相乗効果で、LCCのマーケットは飛躍的に増えていく」との考えを示した。
パイロット不足への対応については、「関空と地元自治体に認めていただき、関空の第2滑走路で副操縦士の訓練を行っている。若い副操縦士を自分のメインベース(拠点)で訓練し、機長に育てていくことが重要だ」と自社養成の重要性を語った。
バニラエア(VNL/JW)の山室美緒子副社長は、拠点とする成田空港について「成田はカーフュー(離発着制限)があり、夜11時までしか運航できない」と述べ、夜間飛行制限がある中でLCCが運航せざるを得ない現状に触れた。
また、中国や韓国のLCC市場に関するパネルディスカッションも開かれた。中国のLCC経営陣からは、「中国は着陸料がFSCもLCCも一律で厳しい」と経営課題の指摘もあった。
2日目となる14日は、北東アジアにおけるLCCの成長などがテーマとなる。
関連リンク
CAPA LCCs in North Asia 2017
CAPA
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関西空港
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