航空機の運航にとって、気象条件の変化を的確に捉えることは、安全性の確保だけではなく、近年航空会社間で競争が激化する定時運航の観点でも重要だ。日本では、夏から秋にかけての台風、冬の大雪と、悪天候への対応力が、これまで以上に航空会社や空港運営者に求められるようになってきたと言っても過言ではないだろう。
気象観測機器などを手掛けるフィンランドのヴァイサラは、エミレーツ航空と冬季気象観測の意思決定新システム「CheckTime(チェックタイム)」の導入試験を進めている。除雪や除氷が必要な気象条件下で運航する際、一定時間しか機体を保護できない防除雪氷液を、効率よく散布するための判断材料をパイロットに提供するシステムだ。
空港で機体に使用する防除雪氷液は、気象現象に対して「ホールドオーバータイム(有効時間)」と呼ばれる一定時間しか機体を保護できない。有効時間を過ぎると、再び散布処理を行わなければならないことから、融氷効果が消える前に離陸しなければならず、刻々と気象条件が変化する現場では、常に難しい判断を迫られる。
ヴァイサラは40年以上にわたり、世界の主要空港に航空気象観測装置を提供。日本国内でも、雲低高度や気圧、湿度、視程などの計測センサーをはじめ、滑走路面監視と路面状態予測のシステムなど、さまざまな納入実績がある。
CheckTimeは、従来パイロットが防除雪氷液の散布量や散布時間を算出していたものを、ヴァイサラが誇る高精度の気象センサーなどを使い、自動化するシステム。これまでホールドオーバータイムテーブルやグラフ、気象条件の観測など、人間が計算していた作業を自動化できるものだ。
エミレーツは、冬季の気象条件の影響を受けやすい米シカゴ・オヘア空港と、デンマークのコペンハーゲン空港の2空港で、2016年冬から導入試験をスタート。CheckTimeが空港の気象条件を観測し、パイロットに航空機の主翼の除氷や除雪の意思決定に必要な情報を提供する。
両空港には、エミレーツの主力機材である総2階建ての超大型機エアバスA380型機と、ボーイング777型機が乗り入れており、実証実験の場に選ばれた。これにより、CheckTimeがパイロットに必要な情報を提供するパフォーマンスを、複数の機材で検証できる。
CheckTimeは自動化だけではなく、パイロットには航空会社のACARS用コンピューターやコックピットのモバイル機器を通じ、アップデートされた最新情報を毎分ごとに提供することで、重要な意思決定をサポートする。
ヴァイサラでは、こうした自動化による業務改善により、パイロットは安全性や運航といったより重要な項目に集中出来るようになり、効率性向上や環境への影響抑制につなげられるとしている。安全性と定時性を向上していく上で、CheckTimeは有効なソリューションと言えるだろう。
関連リンク
Advancements in Airline Deicing(ウェブセミナー)
ヴァイサラ
・ヴァイサラの冬季気象観測技術、エミレーツ航空が評価開始(17年4月11日)