国産旅客機「MRJ」の納入時期について、三菱航空機が顧客に対して5度目の延期を伝えたと報じられている件で、32機を確定発注した日本航空(JAL/JL、9201)へは報道後に連絡があったことが10月3日、Aviation Wireの取材でわかった。JALは2021年からMRJを受領する予定で、現時点では機体が計画通り引き渡されるとの見方だ。
ANAホールディングス(ANAHD、9202)とJALでは、初号機の受領時期が3年違うことや、MRJで置き換える機材の現状も異なっている。このため、仮に5度目の納入延期が正式決定した場合、ANAHDのほうがリスクが大きい。すでに2017年度には“中継ぎ”機材の就航が決定している。
—記事の概要—
・JALは21年受領開始
・置き換え迫るANA、2段階導入のJAL
JALは21年受領開始
三菱航空機は9月末、MRJのローンチカスタマーで、全日本空輸(ANA/NH)などを傘下に持つANAHDに対し、MRJの納入遅延リスクが生じる可能性を説明した。ANAHDによると、引き渡し時期の延期について言及はなかったという。
この件について10月1日以降、三菱航空機がANAHDに対し、量産初号機の引き渡し延期を伝えたと報道各社が報じた。これに対し、三菱航空機は10月3日午前、MRJの製造を担当する親会社の三菱重工業(7011)とともに「現時点で納期変更を決定した事実はありません」との声明を発表した。
JALによると、9月末時点では三菱航空機から納期に関する連絡はなく、一連の報道が出た後に説明があったという。この際、納入延期に関する言及はなかったとしている。
ANAHDは現在、MRJを25機(確定15機、オプション10機)発注済み。現時点での量産初号機引き渡しは、2018年中頃となっている。運航はグループで地方路線を担う傘下のANAウイングス(AKX/EH)となる見通し。
MRJの納期がこれまでに4回遅れた影響で、ANAHDは今年6月に加ボンバルディア社のターボプロップ(プロペラ)機DHC-8-Q400型機(74席)を、3機追加発注。2017年度に全機受領する。
これまでの量産初号機の納期見直しを振りかえると、当初の納入時期は2013年だった。これが2014年4-6月期、2015年度の半ば以降と延期され、三菱航空機が現在公表している2018年中頃とする納期は、2015年12月24日に示された。
一方、JALは32機すべてを確定発注したが、同社向けの初号機受領は2021年を予定。量産機を最初に受領するANAHDとは異なり、納期には余裕がある。運航はグループで地方路線を担うジェイエア(JAR/XM)が担う。
また、2014年8月のMRJ導入発表時には、JALは現在運航中のブラジル製エンブラエル170(E170、1クラス76席)の追加購入と、エンブラエル190(E190、2クラス95席)の新規購入も発表している。E190の初号機(登録番号JA241J)は今年4月に受領し、5月から就航している。
置き換え迫るANA、2段階導入のJAL
機材の置き換えについても、ANAHDとJALでは事情が異なる。ANAHDは旧式化したボーイング737-500型機(126席)を中心にMRJに置き換えるが、納入延期に伴い、退役計画を見直している。また、Q400で運航する路線の一部もMRJへの置き換えを予定していたことから、機材計画の見直しに伴い、6月の追加発注に至っている。
一方、ジェイエアは9月時点で、E170を17機、E190を3機、ボンバルディアCRJ200型機を8機の計28機を保有。CRJ200を退役させてエンブラエル機へ統一後、2021年から7年程度かけてMRJへの置き換えを2段階で進める。三菱航空機が現在示している納入計画で、ANAHDの3年後に初号機を受領するジェイエアは、仮に5度目の延期が現実のものとなっても、余裕のある対処が出来る。
MRJは8月31日に正式契約した米エアロリースの発注により、ANAHDやJALなど計7社から427機(確定発注233機、オプション170機、購入権24機)を受注している。国内2社については、今後納入スケジュールが見直されても早期に購入機数を見直す可能性は低いが、海外勢は確定発注分にとどまるおそれがある。
E170など「Eジェット」の後継機で、MRJと同じ新型エンジンを採用した「E2シリーズ」は、開発計画を大幅に前倒しして最初の機体を初飛行させており、低燃費や低騒音といったMRJの長所は、E2シリーズも一定程度実現している。
MRJは量産初号機(JA21MJ)が米ワシントン州モーゼスレイクへ到着したことで、2018年の国土交通省航空局(JCAB)による型式証明(TC)取得に向け、飛行試験が本格化する。しかし、飛行試験や量産工程も、計画通り進むかは未知数。ライバルの追い上げもあり、MRJを巡る環境は徐々に厳しいものになりつつある。
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