全日本空輸(ANA/NH)は8月30日、ボーイング787型機のエンジンで起きた、硫化腐食による中圧タービンブレードの破断について、発生までの飛行回数と交換タイミングを明らかにした。
エンジンを製造した英ロールス・ロイス(RR)は、設計に問題があったことを認めており、対策を施した改良型タービンブレードを開発中。3年後の2019年末には、ANAが運航する787全機のエンジンが改良型に置き換わる。
19年末までに改良型へ交換
トラブルが起きたのは、787に左右1基ずつ計2基搭載されているRR製エンジン「トレント1000」。エンジン内で、燃焼ガスを発生させるために必要な圧縮空気を送り出す圧縮機を回す「中圧タービン」のニッケル合金製タービンブレードが破断するトラブルが発生した。
ANAは現在、787を50機保有しており、このうち国際線仕様機が37機(787-8が25機、787-9が12機)、国内線仕様機が13機(787-8が11機、787-9が2機)。同社によると、トラブルが起きたブレードは、保有するすべての787で基本的に同じ構造だという。
RRは、2017年1-3月期に対策を施した改良型タービンブレードの供給を開始予定。ANAが現在保有する全50機の787用エンジン100基については、3年後の2019年末までには、すべて改良型に交換する。
改良型の供給が始まるまでは、新品や飛行回数が少ない現行品に規定より早く交換することで、トラブル発生を防ぐ。これまでに100基のうち、17基は新しい現行品に交換済み。
最初に起きたトラブルは、今年2月22日のクアラルンプール発成田行きNH816便(787-8、登録番号JA804Aの右エンジン)で、2件目は3月3日のハノイ発羽田行NH858便(787-8、JA807Aの右エンジン)で発生。その後、8月20日に国内線の羽田発宮崎行きNH609便(787-8、JA825Aの右エンジン)でも起きた。
いずれもトラブルが発生したエンジンをパイロットが手動で停止し、出発した空港へ引き返して緊急着陸している。787は短時間であれば、使用出来るエンジンが1基だけでも最寄りの空港まで飛行出来る。
航空機のエンジンは飛行時間や飛行回数などに応じて整備するため、機体受領時のものを使い続けるわけではない。1件目のJA804Aの右エンジンは2013年12月9日に使用開始。2件目のJA807Aの右エンジンは同年6月30日、3件目のJA825Aの右エンジンは2014年2月6日に、それぞれ使用を開始している。
2.5年以内に交換
トラブルが起きるまでのエンジンの飛行回数は、JA804Aが1986回(国際線939回、国内線1047回)、JA807Aが2739回(国際線1433回、国内線1306回)、JA825Aが4858回(すべて国内線)。すべて右エンジンで発生したが、ANAによると左エンジンでも起きる可能性があるという。
エンジン交換のタイミングは、運航した路線や飛行時間、飛行回数、使用した推力、回転数など、エンジンの複数項目をRRが分析し、ANAと協議の上決定している。
飛行回数と使用期間に限定すると、エンジンを交換するタイミングは国際線が飛行回数1250回から1450回の間、国内線は4200回から4400回の間で、いずれも期間にすると1.5年から2.5年で交換時期を迎える。
欠航計画は未定
一方、エンジン不具合に伴う9月分の欠航については、15日までは全便を運航。欠航は生じないものの、遅延は1便発生する。
8月25日に不具合を公表した時点では、国内線で1日10便程度の欠航が9月末まで発生するとしていた。9月16日以降の見通しは立っておらず、欠航や遅延便は確定次第、発表するという。
メキシコ用新型エンジンは予定通り
また、2017年2月に直行便で新設する成田-メキシコシティ線には、長距離国際線仕様の787-8を投入する計画。しかし、メキシコシティ国際空港は標高2000メートル以上の高高度の上、高温のため、現在の787-8用エンジンでは、乗客数や貨物搭載量に制限を掛けなければ運航できない。
このため、ロールス・ロイスは高高度や高温の空港でも通常通り離着陸出来る新型エンジン「トレント1000-L」を開発中。
ANAはメキシコシティ線開設までに、トレント1000-Lの導入は間に合うとの見方を示した。
関連リンク
全日本空輸
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