「ボーイング787型機の一部機材のエンジンについて、安全性確保のため点検・整備作業を実施することといたしました」。8月25日午後6時、全日本空輸(ANA/NH)は787で運航する国内線の一部について、26日から欠航が発生すると発表した。26日は9便が欠航し、27日から9月末まで、1日あたり約10便が欠航する。
しかし、なぜエンジンの点検や整備が必要になったかについては、冒頭の利用者への案内に説明はなかった。25日夜の一報以来、弊紙にも不安の声が寄せられ、中には「欠航が出るまで隠していたのか」と疑念を抱く人もいるほどだ。
なぜ787の整備が必要になり、国内線だけ欠航が生じるのだろうか。また、昨日時点での利用客への情報提供は、適切だったと言えるのだろうか。
—記事の概要—
・今年に入り3件発生
・厳しい国内線の機材繰り
・本当に787大丈夫?
・手荷物未搭載、システム障害
・与党や国交省「慢心では?」
今年に入り3件発生
問題が起きたのは、787に左右1基ずつ計2基搭載されている英ロールス・ロイス(RR)製エンジン「トレント1000」。エンジン内で、燃焼ガスを発生させるために必要な圧縮空気を送り出す圧縮機を回す「中圧タービン」のニッケル合金製タービンブレードが破断するトラブルが発生した。
ブレードは、メーカーが定めた一定期間使用後に交換していく部品で、エンジン1基に110数枚ある。このうちの1枚が硫化腐食で生じた亀裂により、エンジンに負荷が掛かる離陸上昇中に破断するトラブルが、今年に入り国際線で2件発生後、国内線でも1件起きた。
最初に起きたトラブルは2月22日のクアラルンプール発成田行きNH816便で、2件目は3月3日のハノイ発羽田行NH858便で発生。その後、8月20日に国内線の羽田発宮崎行きNH609便でも起きた。いずれもトラブルが発生したエンジンをパイロットが手動で停止し、出発した空港へ引き返して緊急着陸している。787は短時間であれば、使用出来るエンジンが1基だけでも最寄りの空港まで飛行出来る。
ANAによると、RRからは空気中に汚染物質が浮遊している可能性が高い、東南アジアやインドなどの空域を飛行した場合、想定よりも早期に硫化腐食が起きる可能性があると、説明を受けたという。
両社は腐食を防止するコーティングに問題があったと見ており、RRは年末までに対策を施したブレードの設計を終え、2017年1-3月期にもANAなど航空会社への供給を開始する見込みだ。
対策品が完成するまでの間、ANAではメーカーの規定よりも早期に新品のブレードへ交換し、再発を防止する。一定期間ごとに必ず交換が発生する部品であることから、最終的にはANAが使用している全エンジンの中圧タービンブレードが、対策品に交換される。
厳しい国内線の機材繰り
ANAは現在、国際線仕様と国内線仕様を合わせて、世界最多となる50機の787を保有。2月に起きた1件目のトラブル以降、ANAでは3月から対策を開始し、国際線で飛ばす機材で使用するエンジンのうち、17基はメーカーの規定より早い時期にブレード交換を終えた。
しかし、20日に国内線でもクアラルンプールやハノイと同じトラブルが起きたため、対象エンジンを13機ある国内線仕様機で使用するものまで広げた。
エンジンは飛行時間や飛行回数などに応じて整備するため、機体受領時のエンジンを使い続けるわけではない。このため、今回のブレード交換作業は機体ごとではなく、エンジンの使用頻度に応じて実施している。
26日は13機ある国内線仕様機のうち、ブレード交換が必要となった5機の運航を停止。残り8機のエンジンについても、同様の交換作業を順次進める。国内線のみ欠航が生じるのは、予備機を稼働させても機材繰りに余裕がないためだと、ANAは説明している。
本当に787大丈夫?
「今まで頻発してたのに隠していたのか」「26日に飛ばす機体は本当に大丈夫なのか」「客が問い合わせなければ事情を説明しないのか」──。今回のトラブルに関する記事を25日夜に載せて以降、弊紙にはこうした疑問の声が読者から寄せられた。中には「欠航が出るまで隠していたのがANAらしい」と、辛らつな意見もあった。
冒頭で触れたように、同社のウェブサイトに掲載されている「【お詫び】ボーイング787型機の整備にともなう欠航便の発生について」という利用者向けの案内には、26日に欠航する便の情報や、27日以降の対応については記載があるものの、タービンブレードの破断が2月以降3件起きていたことなど、欠航に至った経緯については触れられていない。
ANAの幹部は「何かを隠しているという訳ではない」と理解を求めるが、787は3年前の2013年に、バッテリーから煙が出るトラブルが発生。787全機の運航が、5月に臨時便を飛ばすまでの約4カ月半に渡りストップした“前科”がある。十分な説明がなければ、利用者が「本当に787は安全なのか」という疑問を抱くのは当然だ。
直近では、8月15日に成田発上海(浦東)行きNH959便(787-8、登録番号JA840A)が、成田空港のA滑走路(RWY34L)を離陸時にエンジントラブルが発生。離陸を中止するトラブルがあった。ANAでは、このトラブルと今回のタービンブレード破断は関係ないとしている。
例えANAが事実を隠そうとしていなくても、現時点で利用者の受け取り方はさまざまだ。情報開示が不十分であれば、利用者の不安が広がるだけだろう。
手荷物未搭載、システム障害
787のトラブルとは別に、8月12日朝に羽田空港を出発する計48便で、受託手荷物が未搭載で出発するトラブルがあった。ANAの運航便だけで、未搭載の手荷物は2000個超にのぼる。
さらに今年前半までさかのぼると、3月22日朝には国内線予約システム「エイブル」で障害が発生。復旧までに約12時間要した。ANAの国内線だけで146便が欠航し、約1万8200人に影響が出た。遅延便も391便にのぼり、約5万3700人に影響が及んだ。
8月初旬、羽田空港を多頻度で利用する40代の男性客は、目の前で起きた地上旅客係員の応対に唖然としたという。
「空港で乗継客の行列が出来ていて、30分経ってもほどんど進まなかった。私の前には荷物に(ANAが属する航空連合の)スターアライアンスの多頻度利用者を示すタグを付けた中国人の家族連れがいた。こうした混雑状況であれば彼らに声を掛けて会員種別を確認した上で、上級会員のカウンターに誘導するのが、アライアンスに属している会社のサービスだと思う。しかし、係員は見て見ぬふり。
係員に“投書用の紙はないか”と尋ねたら、封筒で送る投書用紙ではなくイラスト入りのメモ紙を渡され、“客室乗務員に渡してください”と言われた。ANAは本社にクレームを上げさせないのか」と激しい憤りをあらわにした。トラブルだけではなく、接客についても利用者から厳しい目が向けられている。
与党や国交省「慢心では?」
今年に入り相次ぐトラブルを受け、永田町の与党関係者や航空会社を監督する国土交通省からも、「慢心ではないのか」との声が聞こえてくる。
利用者が787という機種に対して、過去のトラブルからどのような不安を抱き、手荷物未搭載などトラブルが頻発している状況をどう見ているのか、利用者への説明と報道とのかい離をどう感じているのかを真摯に受け止めない限り、熱狂的なファンを除いて、利用者の不安は払拭できないだろう。
そしてこれらの問題は、ANAに限らずすべての航空会社が我が事と捉え、問題の改善に取り組むべきものだ。
関連リンク
全日本空輸
ANAホールディングス
Boeing
ボーイング・ジャパン
Rolls-Royce
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