飛行機と自転車を組み合わせた青森・函館の旅はいかが? 近年国内だけではなく、アジア諸国でも富裕層を中心に人気が高まっているサイクリング。自らの足で空港から名所や旧跡をめぐりながら名産品に舌鼓を打ち、宿泊先へ向かう旅は、従来の観光バスを仕立てたものとは違った発見がある。
一方で、飛行機を使用する場合、到着空港に自分の自転車を持ち込んで観光に出掛けるスタイルは、まだまだ一般的ではない。自転車を航空会社へ預ける場合、フレームや車輪、サドルなどを分解して移動する「輪行」用のバッグに自転車を収納し、出発空港で預ける。そして到着空港でバッグから出し、自転車を組み立てて出発する。
しかし、到着地では組み立てる工具や空気入れが必要となり、輪行バッグもコインロッカーなどに預けなければならない。往路と復路で異なる空港を使いたいとしても、移動をサポートしてくれる車がないと難しいのが実情だ。
日本航空(JAL/JL、9201)では、4月から青森県サイクルツーリズム推進協議会や津軽海峡フェリーと連携し、県内や函館を周遊・滞在するサイクルツーリズム商品を設定している。
6月に入り、JALのパイロットらによる「JAL自転車クラブ」の部員が青森を訪れ、協議会のメンバーとともにモデルコースを試走した。愛車を飛行機に預けて現地へ到着した際、どういった設備が空港にあれば良いかなど、利用者の視点で関係部署に改善点を提案し、サイクリストが使いやすい空の旅を求めていく。
—記事の概要—
・サイクリングで地域活性化を
・ホタテとサイクリング
・楽器のような専用ケースを
・理想求めないと実現できない
サイクリングで地域活性化を
自転車クラブは2015年2月に発足。パイロットや整備、客室乗務員を中心に部員は50人おり、このうち実際に走る部員が45人、クラブの活動をサポートするメンバーが残り5人だ。部員の居住地別に開く練習会や年4回の合宿に加え、発足1年目の2015年は筑波8時間耐久レースに春夏秋と参戦するなど、競技にも参戦している。
筑波は夏の大会で55歳以上を含むカテゴリーで優勝、2016年春はカテゴリー準優勝、幕張サイクルモード2時間耐久レースは総合優勝を果たす実力チームだ。
部長はボーイング767型機の機長、大橋篤さん。自宅近くの友人に誘われたのがきっかけでサイクリングを始めた大橋さんは、「疾走感がたまらないですね。空気と戦いながら一体感があります」と魅力を話す。
発足当初の部員は20人だったが、現在は藤田直志副社長が顧問に就き、ユニフォームには鶴丸ロゴが入る。
「今回のメンバーは私も含めて、試走して気になったことを他部署に挙げやすい立場の人間が走ります。いまはアマチュアレースなどが主な活動ですが、サイクリングを地域活性化につなげる役に立ちたいですね」と、試走への意気込みを語った。
今回は雨天となったため、パイロット8人と整備士2人、客室乗務員1人の11人が試走。青森を訪れた全員が走行することは断念し、雨が激しくなった際に同行するバンに自転車をしまえる余力を持たせた。
ホタテとサイクリング
青森空港では実際に部員の自転車を飛行機から降ろして、荷物の受け取り場所で受領。ターミナルの外で輪行バッグから出して組み立てて、協議会メンバーが先導して出発した。
空港からは県道27号線の坂を下り、畑が広がる市内を北上。約1時間ほどでフェリーターミナルへ到着した。
ターミナルでは、津軽海峡フェリーのブルードルフィン(7003トン)の船内を見学。普通客室「スタンダード」のほか、ジャグジーやベッドを備えた「プレミア」などを見学した部員たちは、自転車で走った後の一杯を楽しむ場所を思い浮かべていた。
客室に続いてブリッジ(操舵室)を訪れると、エンジンのスロットルレバーなどを目にすると、部員たちは仕事柄も手伝い異様に盛り上がっていた。乗組員にも熱心に質問し、見学コースを先導していた青森空港のJALスタッフが移動を促しても、なかなか前に進まないほどだった。
船内を見学した部員たちはターミナルを後にし、青森県平内町にある「ほたて広場」を訪れ、名産のホタテを楽しんだ。ほたて広場は県と漁業団体がむつ湾で水揚げされるホタテをピーアールするとともに、県内で捕れる魚介類や加工品を販売している。
ほたて広場は名産品の販売や飲食だけではなく、県がサイクルツーリズムを推進するために設置している「青森ペダルレスト」のひとつ。駐輪ラックや空気入れを設け、自転車で立ち寄りやすい環境を整備している。
楽器のような専用ケースを
コース前半を走り終えた大橋さんは、「砂利が意外と多かったですね」と話す。「砂利やガラスの破片があると、パンクにつながる可能性があります。整備まではいかなくても、サイクルツーリズムを誘致する際、県としてどういった点が問題になるかを把握していただければと思いました。そうすると、自転車乗りが“青森はいいよ”という口コミにつながるのでは」と、安全確保の重要性を指摘した。
今回の試走で唯一の女性参加者だった客室乗務員の松井彩さんは、「空港を出て道を下っていくところが、晴れていたら絶景ポイントだったんだろうなと、雨で残念でした」と話す。
航空会社や空港として、どういった点を改善すると、サイクルツーリズムは盛り上がるのだろうか。大橋さんは「空港に空気入れや工具が常備してあるだけでも、違うと思います」と話す。
「飛行機の場合、朝一番の便だと貨物も多いです。実際に自転車を何台まで積めるようにするかなど、どうすれば自転車と共存できるかが、弊社の一番の課題です」(大橋さん)と、貨物といかに共存するかも、便数と積載数が限られる飛行機を使った輪行の難しい点だ。
「私たちも運ぶプロ。どうすれば上手く運べるかと、空港のスタッフからも声が挙がっています。一緒にゴールを目指せるのでは、という雰囲気になってきました」(大橋さん)と、全社的な取り組みに発展しつつある点に期待を寄せる。
松井さんは「楽器は飛行機で運搬する専用ケースがあります。どのくらい需要があるかなどの課題もありますが、同じようなものを作るのが夢です」と、飛行機を使ったサイクルツーリズム普及への具体策を練る。
「費用対効果が難しいですね。特に弊社は一度破綻してご迷惑を掛けています。私たちだけがいいねというだけではなく、スペースがどのくらいで、貨物はどのくらい搭載量を落とさなければならないのか、年間何人のお客様が利用してくださるのかなど、みんなで需要を見据えて進めなければなりません」と、大橋さんは実現する以上、会社としてビジネスが成立することが大前提だと話す。
理想求めないと実現できない
大橋さんは「数年前まで、弊社のツアーは発着空港が同じでなければ組めないという、頭が固いものでした。今では空港が選べるようになり、青森からサイクリングに出発し、函館から東京へ帰るツアー組めます」と、周遊型ツアーにも、サイクルツーリズムは適しているのではと考える。
こうした発着空港が異なる旅行の場合、課題となるのが輪行バッグの扱いだ。大橋さんは、「例えば各空港の自治体で用意してしまい、旅行者は羽田まで自転車で来てしまうというのも、一つの解決策では。青森空港に着いたら輪行バッグを置いて出発し、フェリーで函館へ入り、函館空港から帰るという旅程も現実的になります」と、旅行者を呼び込む自治体も巻き込んだ取り組みを提案する。
部員たちに青森で楽しみにしていたものを尋ねると、食べ物と温泉を挙げる人が多かった今回の試走。「コックピットから見ていると、秋は十和田周辺で素晴らしい景色が広がっているんです。いつか自転車で走りたいと思っているんですよ」と、大橋さんは再び青森を走りたいという。
飛行機と自転車を組み合わせた旅行には、現状では課題が多い。しかし大橋さんは、「理想を求めないと、夢は実現できないです」と、現状では難しい取り組みも諦めず、チャレンジしていくべきだと考えている。
「どこまで実現させられるかと話ながら、仲間とお酒を飲みます」と笑う大橋さん。航空会社内で検証を進めることで、飛行機を使ったサイクルツーリズムが、新たな空の旅に成長するかもしれない。
*写真は33枚。
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