熊本県益城町で4月14日に震度7を記録した熊本地震発生から、2カ月が過ぎた。2日後には本震と位置づけられる震度6強の地震が発生。熊本空港のターミナルビルも、天井が崩落するなどの被害が出たため、19日に到着便の扱いを再開するまで閉鎖となった。
そして6月16日には、北海道南西部で内浦湾を震源とする最大震度6弱の地震が起きた。幸い、航空各社の空の便への影響は出ていない。
ANAが益城町町民憩いの家に設けた「こころの湯」を訪れる人=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
航空各社では、こうした自然災害が発生した場合、物資の輸送協力やボランティアへの航空券提供、マイルの寄付などの支援を実施している。
AGPが冷房サービスを供給する益城町中央公民館=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
熊本地震でも、これらの取り組みが行われている。日本航空(JAL/JL、9201)と全日本空輸(ANA/NH)、ソラシドエア(旧スカイネットアジア航空、SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)はマイルや義援金の寄付、JALは今年3月にイオン(8267)と締結した覚書に基づき、物資を輸送した。JALやANAホールディングス(9202)などが出資する空港インフラを手掛けるエージーピー(AGP、9377)は、被災者への行政サービス窓口である益城町中央公民館で、航空機用冷暖房車を使った館内の冷房サービスを実施している。
各社による被災地支援の中で、2004年10月23日に起きた新潟中越地震からANAグループが実施しているのが、除雪車の給湯機能を活用した「こころの湯」だ。中越地震では31日間にのべ2473人が、2011年3月11日発生の東日本大震災では63日間にのべ2237人が利用した。
震源に近い益城町の町民憩いの家に掲げられた「こころの湯」ののぼり=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
熊本地震の被災地では、震源に近い「益城町町民憩いの家」と、南阿蘇の住民が避難している本田技研工業(7267)の「ホンダ健康保険組合熊本体育館」(大津町)の2カ所に「こころの湯」を開設している。
責任者を務めるANAのオペレーションサポートセンター業務推進部業務チームの佐久間徹マネジャーによると、地震発生5日後には開設が決まり、ゴールデンウィークに自治体やホンダとの調整を進めて、5月13日から提供を始めたという。現在のところ、6月末までを予定している。
運営メンバーはグループ各社で募ったボランティアが、休暇を使って2-3日程度参加している。今回は300人以上の応募があり、1日あたり約10人のスタッフが、午前8時から風呂の清掃作業を始め、正午から憩いの家で風呂を提供。数人は体育館へ移動し、午後3時の開場に向けて体育館担当のスタッフと準備を進める。
お湯が出ない大浴場へ派遣
熊本空港周辺は、震源地周辺と比べれば被害が少ない。しかし、憩いの家に近づくにつれて、道路のでこぼこや傾いた電柱が目立つようになり、瓦屋根にブルーシートが掛けられた家や、1階が潰れてしまった家が目に入ってくる。河川敷には土のうが積まれていた。
搭乗券を使った入浴券を手にするANAの「こころの湯」責任者を務める佐久間さん=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
こころの湯の利用者は憩いの家が1日50人から60人、体育館が20人ほど。「清掃作業が入ったりするため、このくらいしか入っていただけないですね」と佐久間さんは話す。5月26日には自衛隊による風呂の提供が終了したことから、20人程度増えたという。
憩いの家はもともと大浴場があったが、地震でお湯が出なくなった。風呂の提供を申し出たANAとお湯が必要な益城町のニーズが一致し、開設に至った。大浴場までホースで除雪車のお湯を供給できたことも、設置できた理由のひとつだ。
受付では、裏面にスタッフがメッセージ書いた搭乗券を入場券として用意し、訪れた人に手渡していた。うちわや歯ブラシなども用意し、なるべく快適に風呂を楽しんでもらえるよう、工夫を凝らしていた。
一方、体育館には風呂がなかったものの、地元企業から浴槽提供の申し出があり、家庭用の浴槽を使った仮設風呂を4つ設置し、入浴剤も用意した。個別の浴槽のため、1組が入浴を終えるたびに湯を抜き、清掃しなければならないのが、憩いの家の大浴場との違いだ。
会話を楽しむ人たち
こころの湯の設置場所を探していく中で、地域によっては被災者が外部の人とあまり接したくない人が多いなどの理由もあり、最終的に憩いの家と体育館が選ばれたという。憩いの家周辺では、いまだに避難指示が出る可能性があるなど、運営は容易ではない。
大浴場にお湯を供給するANAの除雪車エレファント・ミュー=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
使用する除雪車は、ボルボの車体にデンマークのベスタガード社製の装置を載せた「エレファント・ミュー」。憩いの家と体育館に1台ずつ配備し、46度程度のお湯を供給しながら湯船の水温を37度から38度程度に調整している。
「普段は除雪作業用の溶剤を入れているので、中を5、6回洗浄し、専門機関にお風呂の水として使って問題がないか確認しています」(佐久間さん)と、用途が異なる車両を使うためには、こうした準備も必要だ。
こころの湯を訪れる人を見ていると、昼間は高齢者が目立つ。受付のスタッフと話すおばあさんが、「今日は暑いから少しぬるめがいいわねぇ」とリクエストすると、「じゃあちょっとぬるめにしておきますね」と応じる。こうしたやり取りが随所で聞かれた。
「憩いの家はお風呂も大事なのですが、ご近所さんと話をしたり、囲碁を楽しんだり、カラオケを歌いに来る人がもともと多いんです。だから会話も楽しみのひとつのようです」と佐久間さんは話す。
益城町町民憩いの家の大浴場でお湯の温度を測る山下さん=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
今回のボランティアには、実家が大津町にあるスタッフもいた。機内食を手掛けるANAケータリングサービス(ANAC)の山下翔大(しょうた)さんは、憩いの家の大浴場で除雪車のお湯を温度計で測りながら、トランシーバーで状況を伝えていた。
「家の被害はほぼなかったのですが、家族は最初、車に寝泊まりしていました。1階は避難しやすいものの、周りに1階が潰れてしまった家もありました。かといって、2階は逃げられなくなるかもしれない。車はサスペンションがあるから揺れが増幅されてしまいますが、家よりは安全という判断でした」と、山下さんは地震発生当時の様子を振り返る。
さまざまな社員がボランティアで訪れ、短期間で交代する状況で運営することから、佐久間さんは、「運営方法を正確に伝えるのが大切ですね。ある決まり事があったとして、決定した経緯を知る人は必要性を理解していても、しばらく経って来た人は、今は必要がないと判断してしまうかもしれません」と、トラブルを起こさずに運営していく難しさを語る。
航空会社の社員はシフトで動く職種が多く、こうした引き継ぎは慣れている。しかし、普段とは違った環境でとなると、想定外のトラブルを防がなければならない。
「今日は何時から入れるの?」。避難所のお年寄りは、こころの湯で過ごすひとときを心待ちにしている。
地震発生直後と2カ月後の様子
熊本市中央区の繁華街でビルから崩れ落ちたレンガが散乱した歩道=16年4月14日21時48分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
熊本市中央区の繁華街でビルから歩道に落下したレンガ=16年4月14日21時47分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
地震で倒れた熊本市中央区の繁華街にあるコンビニエンスストアの缶ビール(左)やペットボトル=16年4月14日21時49分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
地震発生直後の熊本市中央区にある繁華街の様子=16年4月14日21時55分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAとソラシド便の欠航を知らせる熊本空港の掲示板とカウンターに並ぶ乗客=16年4月15日9時15分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
熊本空港のANAカウンターに並ぶ乗客=16年4月15日9時15分 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
地震により家屋が倒壊した熊本県益城町=16年4月17日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
地震により家屋が倒壊した熊本県益城町=16年4月17日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
地震により家屋が倒壊した熊本県益城町=16年4月17日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
地震により被害を受けた熊本県宇土市役所 =16年4月17日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港に着陸するANAの羽田発NH643便=16年4月19日12時5分ごろ PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港に着陸するJALの羽田発再開初便JL627便=16年4月19日12時7分ごろ PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港の駐車場で手荷物を受け取るANAの羽田発NH643便の乗客=16年4月19日12時17分ごろ PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港で到着口の案内を張り出すANAの係員=16年4月19日12時20分ごろ PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港の駐車場で手荷物を受け取り出口へ向かうANAの羽田発NH643便の乗客=16年4月19日12時14分ごろ PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
地震により家屋が倒壊した熊本県益城町=16年4月19日 PHOTO: Yoshikazu TSUNO/Aviation Wire
熊本空港のターミナルには立入禁止区域が残っているなど注意を呼びかける張り紙があった=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
熊本空港のANAカウンター=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
立入禁止区域が残る熊本空港のターミナル=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
立入禁止区域が残る熊本空港のターミナル=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ターミナル2階のお土産店も一部は営業再開待ちの状態が続く=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
館内のレストランが営業できないため屋外に設置されたレストラン「がんばる軒くまもと」=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
地震直後に到着便の手荷物返却に使っていた熊本空港の駐車場=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ターミナルに立入禁止区域が残る熊本空港=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
震源に近い益城町の町民憩いの家」に駐車するANAの除雪車=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
震源に近い益城町の町民憩いの家に駐車するANAの除雪車=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大浴場にお湯を供給するANAの除雪車エレファント・ミュー=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町の町民憩いの家に掲げられた「こころの湯」ののぼり=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAがこころの湯を開設した益城町の町民憩いの家=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町の町民憩いの家に設けられた「こころの湯」の受付=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町の町民憩いの家の大浴場を使った「こころの湯」。シャワーは使えないので、かけ湯(右)も用意する=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町町民憩いの家の大浴場でお湯をはる山下さん=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町町民憩いの家に設けられた「こころの湯」に入る人=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
手書きメッセージ入りうちわも用意=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
歯ブラシやティッシュも用意=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
益城町町民憩いの家の出口に置かれた手作りの看板16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
AGPが冷房サービスを供給する益城町中央公民館。周辺は被災した家が多い=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
被災した益城町内の建物=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた「こころの湯」=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた「こころの湯」=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた「こころの湯」=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた浴槽の中には、家族で使える大きさのものも=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた浴槽=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
大津町にあるホンダの体育館に設けられた「こころの湯」に入る人=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
お湯を供給するANAの除雪車エレファント・ミューに描かれた象をモチーフにしたイラスト=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
お湯の温度を46度に設定したANAの除雪車エレファント・ミュー=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
エレファント・ミューの運転室天井には作業アームの状態を確認する窓があるため段ボールで遮光していた=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
お湯を供給するANAの除雪車エレファント・ミュー=16年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
関連リンク
ANAホールディングス
全日本空輸
各社の取り組み
・ANA、除雪車で「こころの湯」 熊本被災地で(16年5月16日)
・スターフライヤー、マイル寄付や義援金 熊本地震で(16年4月26日)
・ソラシドも輸送支援 熊本地震で(16年4月16日)
・JALとANA、マイル寄付や復興支援の輸送協力 熊本地震で(16年4月15日)
・JALとイオン、羽田で緊急物資の輸送訓練(16年3月7日)
熊本地震
・熊本空港、出発便も再開 ターミナルは仮復旧(16年4月19日)
・熊本空港、19日に到着便のみ一部再開 ターミナル閉鎖続く(16年4月18日)
・熊本空港、ターミナル閉鎖 16日は全便欠航(16年4月16日)
・JALとANA、16日以降も臨時便 熊本地震で(16年4月15日)
・熊本で震度7 突き上げる揺れ、繁華街でレンガ崩落も(16年4月14日)