全席から通路へアクセスできるビジネスクラスのフルフラットシート、男性客でも足を組める広さのエコノミークラスのシート──。日本航空(JAL)は、2013年1月から成田-ロンドン線を皮切りに、国際線用ボーイング777-300ER型機で新シートのサービスを開始する。
「1クラス上と言って恥ずかしくないレベルを目指しました」。そう語るのは商品サービス開発部企画グループ主任の畠中健太さん。今回はビジネスとエコノミーがイチ押しだという畠中さんに、新シートの特徴などを伺った。
「今さら」と思われないビジネスに
海外の航空会社との競争が激化するビジネスクラスは、フルフラットシートが当たり前になりつつある。「今さらフルフラットか、と思われないよう、4クラスの中で一番苦労しました」と畠中さんは振り返る。新シート「スカイスイート」は、2-3-2配列ながらシート配置を少しずらすことで全席から通路へアクセスできる構造を採用した。
ベッド長は最大188cm、ベッド幅最大65cm、ベッド時の足もと幅53cmとゆとりをもたせ、水平型完全フルフラットシートの導入で足もとまで広いベッドと、個室に近い構造でファーストクラス並みの居住性を実現している。個人モニターも「ファーストと同じ23インチで、ビジネスでは一番大きいです」と、ファーストを意識し大型化した。
個室に近い構造になったが、電動プライバシーパーティションを装備し、隣りの同行者とも会話ができるよう配慮した。ビジネスの利用客の多くは社用だが、プライベートでの利用で要望が多かったのが、隣席の同行者と会話ができる構造だったという。
「機内でお休みされるお客様もいらっしゃれば、お仕事をされる方、くつろがれる方もおられます。ビジネスクラスは多様な要望に応じる必要があるんです」と語る畠中さん。快適な眠りを求める乗客のために、高反発のマットレスと枕「エアウィーヴ」を寝具として用意。寝室としてのレベルもこだわった。(ビジネスクラスの詳細はこちら)
イチ押しに抜擢されたエコノミー
エコノミークラスの企画を中心に手掛けた畠中さん。「実は最初のイチ押しは、ビジネスとプレミアムエコノミーだったんですよ」と企画当初の様子を明かす。経費削減により、ビジネスクラスの利用客がプレミアムエコノミーに流れた。ビジネス需要が多い長距離国際線のシートをリニューアルする以上、ニーズに応じた対応が必須だ。なぜエコノミーに力を入れることになったのだろうか。
「一番多くの方に乗っていただくのがエコノミー。今後私たちが生き残るためには、まだJALに乗っていない方に選んでいただく必要があります。このエコノミーを“入口”にしたいと考えました」。日本でも低コスト航空会社(LCC)が就航し、初めて空の旅に出る人も増えている。また、インターネット予約の普及で個人旅行者が増加していることもエコノミー強化のきっかけだという。
一度でも利用してシートの広さなど「こっちの方がいいよね、と言っていただけるように工夫しました」と話す畠中さんは、ビジネスとは異なるエコノミーの客層にも配慮したそうだ。その客層とは女性の利用客で、小物入れなどに気を配った。
前席のヘッドレスト右側に用意された小物入れはメッシュ状になっている。乾燥する機内で女性がよく使うリップクリームや、コンタクトのケースをしまう際に便利な形状にしたという。「シートポケットだと深さがあり、探さなければなりません。メッシュなら何が入っているかがわかりやすいので、このような形状にしました」と経緯を話す。
シートポケット外側にはペットボトルを入れられるネットと、斜めにカットしたネットを付けた。機内で手渡される出入国書類は、シートポケットに入れてしまうと探すのに苦労するが、この斜めにカットしたネットであれば取り出しも容易だ。
ヘッドレスト左側にはスマートフォンフォルダと充電用USB端子、映像入力端子を用意。パソコン用電源もあるため、導入が進む機内無線LANサービスとともに、地上に近い環境でパソコンや携帯端末が利用できる。
足もとのスペースは最大約10cm広げ、居住性を向上させた。シートバック(背もたれ)を薄くしたスリムシートの導入とシートピッチを7.6cm(3インチ)広げたことで、「身長180cmの人が足を組めるくらいの広さになっています」。テーブルは二つ折り構造のものを採用。食事では通常のサイズで使用し、飲み物だけを置く時は小さくすることが可能になった。(エコノミーの詳細はこちら)
客層を深掘りしたファーストとプレミアムエコノミー
目玉となるビジネスとエコノミー以外も、1クラス上を目指している。ファーストクラスでは、世界最大級のベッドサイズを実現し、テンピュールの寝具を採用。個人モニターも19インチから23インチに大型化して書斎や寝室のような空間を目指した。
テーブルを中央まで移動すると、前後に対面して座ることができる。「同行される方も全員ファーストで、とはなかなかいきませんので、他のクラスに乗られた方が打ち合わせなどを行いやすい空間にしました」。秘書など他クラスに搭乗した同行者を自席に招けるよう、乗客のニーズに応えた。
プレミアムエコノミーはビジネスマンのニーズを追求。「テーブルはビジネスよりも大きいんです」と畠中さんが語るように、かつてのビジネスクラス並みのシートにした。配列は2-4-2で、シートピッチは107cm(42インチ)と現行の97cm(38インチ)から10cm(4インチ)広げた。
12時間過ごす場所
畠中さんによると、プレミアムエコノミーとエコノミーでは、足もとを広くするため、ある工夫を行ったという。
「両クラスとも今までは足もとにIFE(機内エンターテインメント)の機器がありました。これを別の場所に移そうと考えたのですが、私も技術的な細かいことまではわかりません。弊社の技術部門が場所の検討とシートメーカーとの交渉を行ってくれて、エコノミーは座面の真下に移設して足もとのスペースを確保しました」と語る畠中さん。企画を立案するのは自分でも、各部門の協力抜きには実現できなかったことの一つだそうだ。
両クラスは席数も多いため、色にもこだわった。これまでの座席は落ち着いたグレーを基調としていたが、JALのコーポレートカラーである赤を採用。機内に入り、明るい気持ちになる色遣いにしたという。ヘッドレストのカバーも、日本の伝統を感じさせる市松模様をテーマにモダンなデザインを採り入れた。毛布やクッションなど、布製のものの多くはこのデザインで揃えて統一感を出す。
エコノミーのメッシュ状小物入れなど、細部にこだわった理由を「12時間過ごしていただく場所ですから」と畠中さんは説明する。成田-ロンドン線などの長距離路線の機内は12時間近く過ごす以上、シートへの要求は人それぞれ。多様なニーズに応じつつ、もう一つ重要なことがある。
新シート導入で、座席数はファースト8席(現行8または9席)、ビジネス49席(77または63席)、プレミアムエコノミー40席(46または44席)、エコノミー135席(115または156席)の計232席と、改修前の246席または272席より減少する。座席数が減っても「収益が上がらないとだめです」と強調する。
海外の航空会社はエアバスA380型機の日本路線投入や日本人旅客向けサービス拡充など、ハードとソフト両面で攻勢をかける。4クラスで開発に3年を要した新シートで、一度利用した乗客に再び選んでもらえる航空会社にしたいと、熱い思いを畠中さんは静かに語ってくれた。
各クラスのシート詳細
・JALの777-300ER新シート ファースト・ビジネス編
・JALの777-300ER新シート プレエコ・エコノミー編
関連リンク
日本航空
スカイスイート 777
機内公開
・日航、新国際線機「スカイスイート 777」の機内公開 1月9日ロンドン線就航
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・「オーベルジュへ泊まりに来てください」 JAL国際線新機内食担当CAに聞く
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・「寝心地重視したビジネスでくつろいで」 JALスカイスイート担当者に聞く
・寝具もこだわったJALスカイスイート、エアウィーヴ最上位をビジネスに
・快適性求めたJALスカイスイート GKインダストリアルがこだわった操作性と居住性の両立
シート写真特集
・JALの777-300ER新シート ファースト・ビジネス編
・JALの777-300ER新シート プレエコ・エコノミー編
スカイスイート 777発表会
・日航、1クラス上のシートと“空のレストラン” 13年から国際線777で新サービス
その他
・日航、新制服をお披露目 CAは鶴丸モチーフ 13年上期から
・「我々には後がない」 JALが背水の陣で挑む国際線機内ネット接続「JAL SKY WiFi」
【お知らせ】
記事初出時、エコノミークラスについて「身長170cmの人が足を組めるくらいの広さ」としていましたが、JALより180cm超の人まで足が組めたとの情報が入りましたので「身長180cmの」としました。(2012年9月18日 18:00 JST)