日本航空(JAL/JL、9201)と野村総合研究所(4307)は2月9日、ロボットを活用した実証実験を羽田空港で始めた。保安検査場前でのアナウンスや、利用者への情報提供などを通じて、ロボット導入による地上旅客係員(グランドスタッフ)の支援や、新しい接点作りの可能性を模索する。
使用するロボットは、ソフトバンクグループ(9984)のグループ会社、仏アルデバラン・ロボティクスの人型ロボット「NAO(ナオ)」。オフィスや家庭などで使用される「サービスロボット」と呼ばれるもので、空港のさまざまな場所で実験することから、小型で持ち運びが容易なNAOを選んだ。ロボットを有効活用できる設置場所や用途を検証していく。
—記事の概要—
・残念がる声で人間らしさ
・ロボットと連携し接客へ集中
・現場が求めるもの探る
NAOは1体100万円強。頭部には触覚センサーやカメラ、マイク、スピーカーを備え、胴体には赤外線センサーやソナー、加速度センサー、ジャイロ、足の裏にはFSR圧力センサーが装備されている。ネットワーク接続には、無線LAN(IEEE802.11b/g/n)とイーサーネット接続(10/100/1000BASE-T)が利用できる。
残念がる声で人間らしさ
実証実験は、第1ターミナル南ウィングのJALインフォメーションカウンターと、保安検査場C前で実施。カウンター前では、NAOとデジタルサイネージ(電子看板)を連動させ、空港施設の案内や運航状況、目的地の天候や口コミ情報などを対話形式で提供する。NAOは合成音声で利用者と会話する。
NAOと会話をする際、「いいよ」「違うよ」といった標準語のほか、「ええで」「ちゃうわ」といった関西弁にも対応。野村総研によると、利用者がNAOにどのような返事をするかなど、人間らしい反応を考えたという。関西弁への反応のほか、会話を終えようとすると「そうですか……」と残念がる。
保安検査場前では、旅客係員が装着するスマートウォッチ「Apple Watch(アップル・ウオッチ)」から、NAOへ指示を送信。NAOは保安検査の締切時刻を、日本語と英語、中国語の三カ国語でアナウンスする。
ロボットと連携し接客へ集中
実験期間は2月9日から11日と、16日から18日の計6日間。JALは空港でのロボット導入時の課題抽出や、旅客係員の業務を支援できるかなどを検証する。野村総研は開発者側として技術的な提案やシステム開発などを担当する。
両社はこれまで、ホノルル空港や羽田空港で「Googleグラス」などのウェアラブルデバイスを使用した実証実験を、共同で実施してきた。
今回JAL側でプロジェクトを進めるIT運営企画部次世代技術企画グループの下川朋美さんと空港企画部の福島英峰(ひでたか)さんは、ともに旅客係員の経験者。2015年10月のプロジェクト発足から携わっている。下川さんは「旅客係員の仕事をロボットに置き換えるものではない」と、実験目的を説明する。
「ロボットとの連携により、保安検査場でのアナウンスなど、業務集中時に対応しきれなかったサービスを実現する支援や、利用者との新しい接点を模索することで、人的サービスの質を向上させたい」(下川さん)と話す。ロボットも“NAOありき”ではなく、検証結果を通じてさまざまなものを調査していくという。
現場が求めるもの探る
福島さんは2015年11月に開催された、JALの「第4回空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」で準優勝後、現在の部署へ異動となった。「旅客係員が必要ないものを導入しても意味がない。実験を通じて、どのような要望があるかなどを把握したい」という。
試用した旅客係員は、「繁忙期などは、アナウンスをしたい時でも手が回らない時がある。スマートウォッチからロボットに指示できれば、係員の業務が重なった時に従来出来なかった案内が出来るのではないか」と感想を話した。
下川さんは、「ロボットによる自動化で、旅客係員が利用者との接客に時間を割けるようにしたい」と、意気込みを語った。
野村総研の上級テクニカルエンジニアのデジタルビジネス推進部オープンイノベーション推進グループの幸田敏宏さんは、「単に仕事を受注するのではなく、技術的な提案とJALの現場からの要望を組み合わせて、開発していきたい」と語った。
*写真は7枚。
関連リンク
日本航空
野村総合研究所
Aldebaran Robotics
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