「観光客がほとんど来ない。みんな沖縄に持って行かれる。どうなるんだ……」。これは2013年11月、中心部のある居酒屋で、マスターから聞いた言葉だ。
ここは鹿児島・奄美大島。当時、東京との路線は日本航空(JAL/JL、9201)が羽田-奄美大島線を1日1往復運航するのみだった。その後今年7月1日、LCC(低コスト航空会社)のバニラエア(VNL/JW)が成田-奄美大島線を1日1往復で就航。現在は東京(羽田、成田)と1日2往復していることになる。
記者(私)は11月中旬、奄美を訪れてみた。VNL就航から4カ月、奄美大島に観光客は増えたのか。地元の人々に尋ねた。なお、記者は関東を生活拠点としているため、「関東目線」で執筆することをご容赦いただきたい。
街の人々も期待するバニラ就航
鹿児島県観光交流局観光課が実施している観光動向調査によると、奄美大島の宿泊者数は7月が前年同月比10.0%増の2万4383人、8月は台風の影響で同3.9%減の2万4863人、9月は同1.9%増の2万1086人だった。VNLの就航などが寄与しているようだ。
奄美市中心部、屋仁川(やにがわ)通り近くにあるホテルの従業員に話を聞くと、「感覚として2、3割程度だが、宿泊客は確かに増えた」という。「VNLの就航で、おかげさまで忙しくなった」。
奄美市の観光課によると、関東からの観光客は前年同月比で約4500人増加しているという。奄美の活性化を目的とした特定非営利活動法人「まち色」の担当者は、私が身分を明かす前から「バニラエアって知ってます? おかげで関東からの観光客が増えました」と興奮気味に話してくれた。それだけ奄美の人々にはVNLが浸透し、期待しているという証左だろう。
確かに、屋仁川通り近くのスーパーマーケットには、島名産の「島バナナ」や喜界島の「喜界みかん」など、現地でなければ手に入りにくいフルーツを買い求める関東弁の男性客の姿が見受けられた。
奄美空港内の販売員は、例年に比べ、売り上げが2倍近くになったと話す。「おかげで忙しくなった」とホクホク顔だ。客層は若い人々が多いようで、VNLのターゲット層と合致している。
空港は島の東端にある。中心部の奄美市への公共交通機関は、空港からバスを利用する。個人で移動するには、バスのほかはレンタカーやタクシーで移動するしかない。空港からはおよそ1時間で中心部に到着する。
空港近くのレンタカー会社の従業員によると、これまでは予約なしでも対応できていたが、7月以降は予約していない人には貸し出せないことが多く、飛び込み客は断ることもあるという。こうした事態は初めてなのだとか。しかし、「来年以降、VNLが就航してくれるかどうか分からない」ので、車両の保有台数を増やすかは慎重だ。
変化のない業界も
ここまで、観光客の増加で潤っている人々の事例を紹介してきた。例外となっている業種が1つだけあった。
空港からのタクシーだ。
空港で客待ちをしている運転手によると、「利用数はまったく変化がない」。中心部まで1時間となると利用料金が相当なものになるため、敬遠されているとみられる。しかし、観光客が増えた実感はあるという。
◇ ◇ ◇
時間を少々戻す。VNL就航前夜の6月30日、記者は冒頭の居酒屋を訪れ、話を聞いていた。VNLの就航は地元の人々にとっても大きなトピックだったようで、マスターは「これで人が増えてくれればいいけどね。若い人々にも、もっと奄美に来てもらって、楽しんでもらいたい」と大きく期待している様子だった。
あれから4カ月。マスターは店にいるものの、忙しそうで話をしている余裕はなさそうだ。女将さんに話を聞くと、ここ数カ月は常に忙しいようだ。私が訪れた当日も忙しかったようで、オーダーした黒糖焼酎は15分ほどで届いた。
島の人々はとても温かい。居酒屋では女将さんが三味線を演奏、島唄で歓迎してくれる。商店では、小さな探しものにも丁寧に対応してくれる。錦糸玉子や割いた鶏肉をごはんに載せ、鶏で取ったスープをかけて食べる「鶏飯(けいはん)」や、島野菜や豚肉などと炒める「油そうめん」など、名物も充実。これからの季節は、地元では「フル」と呼ばれる葉ニンニクを使用した炒め物や、北部沿岸で採れるアオサを使用した天ぷらなどを楽しみたい。
今後、LCCの就航で人の流れがどう変化していくのか。航空業界を取材する人間としても、個人としても、奄美に注目していきたい。
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