新関西国際空港会社は9月2日、伊丹空港のターミナル改修計画を発表した。現在日本航空(JAL/JL、9201)と全日本空輸(ANA/NH)で南北に分かれている到着口を中央に集約し、三菱航空機のリージョナルジェット機「MRJ」に対応したフィンガー(桟橋)を新設する。
着工は2015年春で、投資額は200億円強。新関空会社が投資するが、一部は航空会社も負担する。現在の運航便数を減らすことなく改修を進め、2016年秋に中央エリアが先行開業し、2020年春に全面開業する。
到着口は中央集約
伊丹空港は今年で開港75周年を迎え、現ターミナルビルは開業から45年が経過。南北の出発ロビーとバス乗り場を歩く距離が長く、モノレールの駅からターミナル2階にある保安検査場までは一度1階に降りるなど、出発客の動線に無駄がある。到着時も南北2カ所に到着が分かれていることから、出迎える人がわかりにくく、到着口からバスやモノレールへの乗り継ぎも効率が悪い。
改修後は、バスの降車位置を変更することで歩く距離を短縮。モノレール駅とターミナル間にはペデストリアンデッキ(立体連絡通路)を新設し、保安検査場へ直結。ピーク時の混雑が激しい保安検査場も拡張し、待ち時間の短縮を図る。
1階の手荷物受付は、現在はX線検査機が出発ロビーに点在しているが、カウンターの裏手で検査する「インラインスクリーニング」に改め、乗客が係員を介さずに手荷物を預ける「セルフバゲージドロップ」やICタグの導入も検討。コンコース内の動く歩道(ムービングサイドウォーク)を、現在の2基から23基へ大幅に増設し、移動しやすくする。
到着口は中央2階に集約。手荷物受け取り場所は開放感のあるデザインを取り入れ、ターンテーブルは、現在の南3基と北5基の同数の8基を中央に設置。空港からの交通情報は到着口にモニターを用意し、最新情報を常時提供していく。到着口の集約に合わせ、3階まで吹き抜けの到着ロビーに刷新する。到着ロビーは、イベントスペースとして地域の催事などを計画している。
伊丹空港はビジネスマンの利用が多いことから、現在カバー率が全館の60%にとどまる無線LANを100%に向上。段差の解消や点字・多言語の案内標識の整備など、ユニバーサルデザインにも対応する。
中央2階の商業施設は、南側を関西名物を集めた飲食エリア「うまいもんゲート(仮称)」に、北側を関西の名店を揃えた「いっぴんゲート(仮称)」にリニューアル。うまいもんゲートは食べ物をテイクアウト可能にし、いっぴんゲートでは実演販売を実施する。中央3階には、落ち着いた雰囲気のダイニングスペースを設ける。
出発コンコースには土産店やカフェ、コンビニエンスストアを開設。個性のある物販飲食店も誘致する。搭乗ゲート側には飛行機が間近で見られるカフェを設置し、快適さを高める。
MRJ対応フィンガー新設
現在5つあるフィンガーは、耐震性を高めるため4つを建て替え、もっとも北側にある1つを改修。ANAが使用する南側の端には、MRJなどの小型機に対応したものを増設する。
小型機対応時のスポット数は、現在の54スポットから56スポットに増える。このうち、固定スポット数は19スポットから20スポットに増やす。
MRJはANAとJALが導入を計画。伊丹発着便を運航するANAウイングス(AKX/EH)とジェイエア(JAR/XM)が運航することから、フィンガーもターミナルから機体までの傾斜が緩やかなものを新設する。
伊丹のIT化「遅れている」
ターミナル改修時には環境にも配慮。雨水利用を促進し、照明はLED化。空調の高効率化を進める。4階の屋上展望デッキについても拡張し、集客を促進する。
延床面積は現在の約12万6100平方メートルから約13万1200平方メートルに、建築面積は現在の約5万4700平方メートルから約61200メートルに増える。一方、店舗数は現在の約77店舗から73店舗程度に集約する。
新関空会社の安藤圭一社長は、テナントからの売上の見通しについて「どういう店舗が入るかで変わってくるが、現状よりは増える見通し」と述べた。
今回の改修の意図については、「伊丹はビジネスマンの利用が多く、都市型の先進空港にしていく必要がある。ストレスなく短時間で移動できることが大事だ」と説明。無線LANの全館対応などIT化については、「日本の空港は総じて遅れているところが多いが、伊丹も遅れている。羽田や成田は我々より進んでいるが、関空ですら遅れている」と指摘し、国際線がないため同率には論じられないとしながらも、IT化についても先進空港を目指す考えを示した。
また、伊丹空港の展望デッキは、国内でも有数の眺望と評されいる。ターミナル中央部を滑走路側にせり出すことで増設するエリア屋上に設ける展望デッキについて、大阪国際空港ターミナル会社の岡本仁志社長は、「お客様から飛行機がよく見えることが大事。詳しい仕様を決めていないが、ガラスまたはネットフェンスなどで離発着を見られるようにしていきたい」と語った。
伊丹空港は関西空港と共に、今後運営権を民間に売却する。両空港の滑走路やターミナルなどの資産を国が100%出資する新関空会社が所有したまま、公募により選定される民間企業が設立する特定目的会社(SPC)が運営するコンセッション方式を採る。
新たな運営権者が決まる前に改修を発表したことについて、安藤社長は「老朽化が進んでおり、利用者の安全・安心や利便性に関わること。コンセッションでの価値を上げるためではない。コンセッションの有無に関わらず、当然早くやらなければならない」と説明した。
伊丹空港の運用時間見直しや再国際化については、「(国の)基本方針に則っている」(安藤社長)として、ターミナルの改修と連動した動きはないという。
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大阪国際空港
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