エアライン, 空港, 解説・コラム — 2013年10月11日 18:25 JST

コールバックでコスト削減 特集・ANA空港係員はスマホで業務改善(後編)

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 小型無線機を手に、空港内を奔走する航空会社の空港係員(グランドスタッフ、GS)。他社便の運航状況や空港に乗り入れる鉄道の運行情報など、自社便以外のことを乗客に尋ねられることも多い。

 全日本空輸(ANA)は2月26日から、NTTドコモ(9437)のスマートフォン300台を羽田空港に導入した。GSの業務改善ツールとして、最大200人の同時通話が行えるドコモのサービス「ボイスミーティング」を活用している。複数スタッフが同時通話できるようになるほか、業務用端末から得ていた運航情報なども文字や画像で送受信が行えるようになった。

 スマートフォン導入による業務改善は、GSからの発案で始まったもの。本特集の前編「スマホ導入でチームワークも向上」では、現場のGSに導入の効果を聞いた。今回は導入に携わった、全日本空輸 業務プロセス改革室 イノベーション推進部の荒牧秀知部長と、同社オペレーションサポートセンター 品質管理室 空港オペレーション推進部の和唐博文オペレーション推進チームリーダーに伺った。

ANA業務プロセス改革室 イノベーション推進部の荒牧部長(左)とオペレーションサポートセンター 品質管理室 空港オペレーション推進部の和唐オペレーション推進チームリーダー=13年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

乗客の方が情報を持っている現実

スマートフォンを手に案内するANAエアポートサービスの大上さん=13年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 スマートフォン導入のきっかけは、2010年度に行われた、ANA社内の業務改革アイデア募集だった。GSをはじめとする空港側のスタッフから、従来の無線機(MCA無線機)とは別に、スマートフォンを活用できないかという提案が出された。

 台風などで欠航が生じると、乗客からGSに問い合わせが殺到する。スマートフォンやタブレット端末が普及したことで、「お客様のほうが最新情報を持っていることも珍しくありません」(和唐さん)。乗客の対応に追われ、情報のアップデートどころではないGSにとって、改善したい課題だった。

 こうしたことから、GSがスマートフォンを活用した方が、より早く乗客が求める情報を提供できるのではないか、という判断に至ったのだ。

 導入時に課題となったのは通話環境。無線機と同様か、従来以上に便利なものが求められた。ドコモのボイスミーティングは、ANAがスマートフォン導入を検討し始めたころにサービスがスタート。「最初は20人分程度の機材を借りてテストしました」(和唐さん)と、小規模でのテスト運用から始まった。また、空港は横に長いため、アンテナの角度調整なども実施していったという。

 無線機での交信は、送信側と受信側が1対1で話す。このため、やり取りが整理されているように見える。しかし、すでに行われている交信が終わるまで、他の人は交信できない問題があった。和唐さんは「ボイスミーティングでは、話に割り込めるようになりました。これで急ぎの要件がある時に『自分はいつになったら交信できるのだろう』という不安がなくなりました」と、スマートフォン導入による改善点を指摘する。

コールバックでコスト削減

 スマートフォンの機種選定では、通話時間の長さや操作性がポイントになったという。こうした要望をドコモ側に出し、システムが構築されていった。スマートフォン上のアプリケーションも、汎用品を稼働させているという。

 しかし、スマートフォンは無線機と異なり、音声通話ごとに課金されてしまう。コストアップにならないのだろうか。

 ANAでは親機となる電話を1台用意し、ここからスマートフォンにコールバックすることで、通話料を抑えることに成功した。従来と比べて、コスト削減効果は年間800万円くらいになるそうだ。

 無線機よりもコスト削減が見込めるスマートフォンだが、一般の電話回線のため、ドコモ側で障害が発生するとANAのシステムも巻き込まれてしまう。一方で、無線は枯れた技術で安定している。「無線がいらなくなることは考えられないです」(和唐さん)とのことで、無線機はドコモ回線のバックアップ用途を中心に使用を続けていく。

インフラも一緒に整備しないとダメ

 羽田空港のGSによるスマートフォン活用の経験値が増えてきたことで、今後は乗客とのやり取りの多い成田など、他空港にも展開していく予定だ。スマートフォン導入の効果として、荒牧さんと和唐さんは、正確な情報が一斉に伝えられることを挙げる。また、情報を検索できる点もメリットだ。

 ANAでは客室乗務員を皮切りに、運航乗務員、整備士と、運航の現場にアップル社のiPadを大量導入してきた。荒牧さんは、「GSも紙のマニュアルを使っています。ANAはすでにiPadでマニュアルを電子化した経験があるので、紙で確認していた業務のペーパレス化を検討しています」と、今後のプランを語る。

 スマートフォンのようなデバイスを入れると、導入するだけで便利になるのでは、と錯覚することがある。しかし、荒牧さんは「インフラも一緒に整備しないとダメです。また、セキュリティーも考慮し、重要情報が外部に出ないよう、ガイドラインも策定しました」と話す。

 iPadなどのデバイスは比較的安価なため、予算さえあれば支店などが独自判断で導入してしまう可能性がある。社内ネットワークの管理者が知らない間に、セキュリティー対策を施していないデバイスがネットワークにつながる恐れもある。現場の要望とセキュリティーの両立──。業務改善を取りまとめる荒牧さんは、頭を悩ませているようだ。

 業務改善というと、どうしても実際に使用するデバイスに目が行きがちだ。しかし、インフラやガイドラインの策定といった裏方に当たる部分も、しっかり定義して取り組むことが重要だと言えよう。「紙をなくすと考えるだけではダメ」という荒牧さんの言葉が印象に残った。

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