1月7日にボストン・ローガン国際空港、16日に高松空港と相次いで起きたボーイング787型機のバッテリートラブルに関連し、欧米メディアを中心に2012年内に航空会社が行った787のバッテリー交換に注目が集まっている。交換時に787固有の問題はあったのだろうか。
全日本空輸(ANA、9202)にAviation Wireが23日に取材したところ、「高松の機体(登録番号JA804A)は12年10月17日にバッテリーを交換したが、通常の整備の一環だった。交換作業による遅延や欠航もなかった」とのことだった。
31日に再度ANAへ取材したところ、「777と比べても交換頻度はほぼ同じ。夜間や早朝の整備時に交換を行ったが、遅延や欠航は発生しておらず、安全に影響はなかった」と回答した。
ANAによると、昨年1年間にバッテリー交換を行った787は、保有する17機のうち7機。5月から12月までに高松の当該機(JA804A)のものを含めて10件あったが、交換作業で運航に支障が出たケースはゼロ。また、ボストンや高松の事例のような発火による交換はない。
10件の内訳は、補助動力装置(APU)の始動用バッテリーの交換が1件、充電器の不具合に伴うバッテリーの同時交換が1件、メインバッテリーが8件。いずれも容量低下などが原因という。APU始動用とメインバッテリーは同じ型番のバッテリーを使用している。
787を7機保有する日本航空(JAL、9201)でも、昨年は「数回バッテリー交換を行ったが、いずれも通常の整備の範疇(はんちゅう)だった」と説明した。
ボストンで起きたバッテリートラブルを調査している米国家運輸安全委員会(NTSB)は、調査の進捗状況を逐次報告している。これによると、英メギット傘下のセキュラプレーン・テクノロジー(アリゾナ州ツーソン)が製造したAPUの始動動力装置(SPU)と、ユナイテッド・テクノロジー・エアロスペース・システムズ(アリゾナ州フェニックス)が製造したAPUのコントローラーについてテストを終えたが、動作は正常で重要な発見はなかったとしている。バッテリーのモニタリング装置(BMU)を製造した関東航空計器(神奈川県藤沢市)での調査についても、「重要な発見は得られなかった」とした。
NTSBではバッテリーの元素分析など、これまでの目視中心の検査から精密検査へ移行しているが、メディアが飛びつくような新事実は出ていない。一部欧米メディアには「日本企業のものづくりに問題がある」と論ずるものまで出てきているが、読者には事実を冷静かつ正確に伝えるのがメディアのあり方ではないか。
787と777でバッテリー交換頻度に大差なかった点は、念頭に置くべき事実だろう。
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