ビジネスジェットなどジェネラルアビエーションの業界団体・全米航空機製造者協会(GAMA)の統計で、2017年上期(1-6月期)に小型ジェット機カテゴリーでは最多納入を記録した小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」。本田技研工業(7267)の米国子会社ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が開発し、主翼上に配された低騒音エンジンや、標準仕様で乗客4人が乗れるゆったりとした客室、乗員1人でも運航出来るコックピットなどが特徴だ。
エンジンは米GEとの合弁会社GEホンダ製HF120を搭載。パイロット1人でも運航でき、「空飛ぶスポーツカー」とも呼ばれる機体だ。このホンダジェットの操縦桿を、当紙市場調査部のパイロット兼アナリストの私(越島)が米国で自ら握り、最新鋭技術についても担当者からじっくりとお話を伺うことができた。
ホンダジェットを実際に操縦したリポートは、私が知る限り日本初。空飛ぶスポーツカーの飛び心地は、どのようなものなのだろうか。
—記事の概要—
・特徴的なエンジン配置が低騒音貢献
・安全装備と快適性も万全
・いよいよ空へ
特徴的なエンジン配置が低騒音貢献
まずは機体の外を周りながら、性能と技術の説明を受けた。なんといっても、主翼上面エンジンが目を引く。その見た目のインパクトと、流れるように美しいデザインもさることながら、さまざまな機能が盛り込まれている。
主翼上面に配置することにより、高速飛行時に発生する空気抵抗を抑え、速度アップと低燃費を実現した。胴体後部にエンジンを配置する同クラスの機体に比べ、胴体にエンジンを支えるための支柱が不要で、胴体スペースを最大限利用できる。
カーゴスペース(貨物室)は前方が45kg、後方が180kg搭載可能。客室からエンジンが離れていることで、機内で低騒音を実現している。
胴体や主翼の流線型も気になってしまう。これは一体型複合材成形となっており、リベットなどの空気抵抗を減らし、重量を低減する効果を発揮している。翼については、継ぎ目がない事で、燃料漏れなどが起きない安全設計になっている。
給油口は後方1カ所のみ。加圧式の給油システムは採用してないため、給油には若干時間を要する可能性がありそうだ。
小さくて、かわいいランディングギアはSteer-by-wireシステムを採用し、電気的にコントロールしている。これも軽量化するための技術だが、とても深くまで舵が切れて小回りが利くため、小さな空港でも運用は可能だ。
そして、ホンダジェットと言えば、カラフルな機体の塗装も特徴だ。カラーリングはHACIにある塗装設備で行われている。この美しい塗装にも、高性能が隠されている。
最新の塗装設備により、人の手ではまったく凸凹がわからない仕上がりになっている。通常であれば、段差ができるラインの淵を指でなぞっても、まったくわからないほどだ。このまったく凸凹がない塗装が、更なるスピードアップにつながっている。
安全装備と快適性も万全
オーナーパイロット必見なのは、安全装備だ。ピトー静圧管は左に1本、右に2本(1本は予備)、コンピューターとバッテリーは、共にパイロット席(左席)用と副操縦士席用に2系統独立しており、万一片方が機能しなくなっても、バックアップが機能する構造になっている。
ジェット機の場合、雲中飛行など計器飛行方式で飛行することになる。そのような中、一人で乗務する際に便利なのが、左側ピトー静圧管の下方に、着氷センサーを装備している点だ。自動的に、主翼や水平尾翼と、エンジンブリードエアーなどの除氷を行ってくれる。
そして、完全個室になれると話題のラバトリー(化粧室)だが、汚物廃棄も工夫がなされている。このクラスの航空機の場合、ラバトリーを装備していること自体珍しいが、汚物廃棄に機内での作業になることが多い。しかし、専用ダンプノズルが装備されているため、接続して水を流すだけで作業は終了する。オーナーパイロットには、うれしい装備だ。
航空会社が運航する機体とビジネスジェットでは、運用上の違いの中に、空港のインフラ整備がある。航空会社では、当然ながら就航地の空港には専用車両や施設が整っており、スタッフが待ち構えているので、スポットに駐機している機体は電力供給を受けられ、エンジンをかけなくても次便の出発準備や、エアコンを効かせた快適な状態で乗客を迎えられる。
しかし、特に小型ビジネスジェットは、そうはいかない。空港のインフラが整ってない場合が多いため、電源車などがない場合は乗客が搭乗し、ドアを閉めた後でエンジンをスタートさせ、エアコンを効かせることになり、快適な空の旅とは言いがたい。
ホンダジェットを含むいくつかの機種は、片方のエンジンだけで電源を確保できるので、右側エンジンを回して出発準備と空調を整え、左側のドアから乗客を迎えられる。
最近航空会社の航空機に乗ると、機内Wi-fiに接続することで、乗客が各自のスマートフォンで映画を楽しんだり、フライト情報などを確認できることが増えてきた。ホンダジェットは機内Wi-fiに接続すると、フライト情報はもちろん、シェードや照明のコントロールも、スマートフォンで操作可能になっている。
いよいよ空へ
パイロットは通常、無線交信のヘッドセットを着用している。ホンダジェットはヘッドセットを着けていては、エンジンがスタートしたのかわからないほど静か。副操縦士席に座った私は、エンジン計器で回転していることをやっと確認したほどだ。
エンジン始動も、FADEC(Full Authority Digital Engine Control)を採用し、我が家のパソコンと同じくボタンひとつでスタートできる。
アビオニクスは、ガーミンのG3000を搭載。G1000を使用したことがあるパイロットなら、空港の4レターなどを入力する際、「キーボードがあれば」と、一度は思うのではないだろうか。ホンダジェットはタッチパッドを備えており、アルファベットや周波数の数値入力もできるほか、ディスプレイ上のチャートのズームやスクロールも、フィンガーアクションでスマートフォンを扱うような感覚で操作できるのだ。
そして、タキシングを開始するため、パワーレバーを押すとようやくエンジン音を確認できた。ダンパーが固いのか、少し振動を感じたが、滑り出しはスムーズだ。
チェックリストはステージに合わせ、正面のPFD(Primary Flight Display)に表示され、操縦桿のスイッチで確認していく。
いよいよ離陸。滑走路に入り、エンジンをフルパワーにすると2発で4100lbsの推力が、ブレーキを放した瞬間、体をシートに押しつけた。みるみる速度が上がり、ローテーション、ギアアップとなり、2000フィート/分でもまだ余裕で上昇してゆく。
興奮していると、あっという間に高度2万3000フィート、速度250ノットで巡航に入った。客室与圧は自動で、常に快適な環境が維持されている。これも一人でフライトする際には、ありがたい機能だ。
私自身、小型機の経験しかないが操作性はG58バロンに似た印象だった。クイックな操作性とハイパワーエンジン、オプションではあるがTail Speed Brakeの急加速、急減速で、高性能機を意のままに操る感覚である。まさに空飛ぶスポーツカーだ。大型機の経験者にも、感想を聞いてみたいと感じた。
目を引くのは、オートパイロットの繊細さだ。機能としては旅客機のものと何も変わらないが、ルートを少しも外れないのはもちろんのこと、風などに対する修正がとても繊細だった。ILSアプローチは、私がオートパイロット機能に操縦法を教えてもらいたいほどだった。
2000フィートまで降下し、GS(グライドスロープ)の会合を待っている間に、地上を見ると低高度であるがゆえに地上との相対感に気づき、そのスピードに震えた。オートパイロットによるアプローチを行い、着陸間際にオートパイロットを切りタッチダウン。スピードブレーキが自動展開し、スムーズに減速した。
一連のスピーディーな流れで、あっという間にフライトは終了してしまった。フライト時間は41分。長くて短い時間だった。
Very Light Jet(超軽量ジェット機)カテゴリーの機材の中では、速度と高度、積載量のすべてにおいてライバルを上回っている。操縦システムも、アビオニクスが高性能で、長距離フライトでもストレスにならないと言えるものだった。
究極的に追い求められた数値的な性能の良さだけではなく、静かな機内や乗る人に目線に立った使いやすさ、そして何よりも飛ばして楽しいことが印象に残り、売り上げが好調なのも納得だった。
このリポートを読み、ホンダジェット導入に興味を持たれた方は、ぜひ私まで問い合わせていただければ幸いだ。
*ホンダジェット導入に関するお問い合わせは、こちらまでお願い致します。
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