エアライン, 空港, 解説・コラム — 2017年9月21日 20:00 JST

底堅い豪州発需要とシドニー線併用がカギ 特集・JALはなぜメルボルンへ就航したのか

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 成田-メルボルン線、ハワイ島コナ線と、日本航空(JAL/JL、9201)は9月に入り、成田発着の国際線2路線を開設した。コナ線は2010年10月の運休以来7年ぶりの再開、メルボルン線は新規開設の路線で、羽田と比べて発着枠に余裕がある成田空港を活用し、国際線ネットワークを拡充していく計画の一環だ。

メルボルン空港で開かれたJAL成田線就航式典で大西会長とともに記念写真に収まるメルボルン発初便JL774便のパイロットと客室乗務員=17年9月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 新規就航となった成田-メルボルン線の機材は、ボーイング787-8型機の新仕様機「スカイスイート787」。座席数は3クラス161席で、フルフラットシートのビジネスクラスが38席、プレミアムエコノミークラスが35席、エコノミークラスが88席となる、特にエコノミーは、他社の787が1列9席に対し世界で唯一の8席配列で、シート幅に余裕がある点を売りにしている。

 すでに当紙では成田-メルボルン線について就航当日の記事と、成田発メルボルン行き初便の搭乗記メルボルン空港のラウンジ「Marhaba Lounge(マルハバ・ラウンジ)」の写真特集の3本を掲載した。

 今回は、オーストラリア第2の都市であるメルボルン側の需要動向など、JALの戦略に焦点を当てる。

—記事の概要—
シドニー線と合わせて昼間移動も
底堅い豪州発需要

シドニー線と合わせて昼間移動も

 「日本人よりも大柄なオージー(オーストラリア人の愛称)にも、くつろいでもらえる」。JALの大西賢会長は、メルボルン空港で開かれた就航式典で、スカイスイート787のエコノミークラスのシート幅の広さを、こうアピールした。

メルボルン空港で開かれたJAL成田線就航式典で握手を交わす大西賢会長(左)と空港会社のライエル・ストランビCEO=17年9月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メルボルン空港で開かれたJAL成田線就航式典では琴の演奏も披露された=17年9月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 9月30日までの運航スケジュールは、メルボルン行きJL773便が、成田を午前10時30分に出発して午後9時55分着。成田行きJL774便はメルボルンを午前0時5分に出発し、午前9時5分に到着する。シドニー線の早朝着・午前発とは異なるスケジュールにすることで、利用者の利便性向上を狙った。

 メルボルン空港は24時間運用のため、こうした深夜便の就航も可能だ。成田発初便のJL773便でメルボルンへ着くと、いたる所に就航を歓迎するデジタルサイネージなどがみられ、空港会社の歓迎ぶりと期待の高さが伺えた。ここ数年、メルボルン就航はLCCと中国系フルサービス航空会社が続いたことから、空港会社も多様性のあるネットワークを構築したいようだ。

 成田で初便出発前に開かれた式典で、JALの植木義晴社長にメルボルン線の目標とする平均ロードファクター(座席利用率)を尋ねると、「国際線の平均である80%はいくだろう。観光とビジネスの需要のバランスが良い路線だ」との答えが返ってきた。特に国際線を維持していく上で、単価が高く安定的な利用が見込まれる業務渡航の需要は不可欠だ。

メルボルン空港を担当するJALオーストラリア・ニュージーランド地区ビクトリア・南オーストラリア・タスマニア州統括の安光晋作さん=17年9月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2015年1月のEPA締結によるビジネス面で日豪間の交流が活発化する一方、メルボルンの地元ヴィクトリア州政府などでは、観光客の誘致にも積極的だ。JALでメルボルン空港を担当するオーストラリア・ニュージーランド地区ビクトリア・南オーストラリア・タスマニア州統括の安光晋作さんによると、1980年代から1990年代にかけてオーストラリア旅行ブームだったころは、ブリスベンやニュージーランドへも自社便が就航しており、ブリスベンに空港所、メルボルンに営業所があったという。

 「シドニーに次ぐ都市を、ここ数年ずっと研究していた」と安光さんは話す。現在は5月にメルボルン入りした安光さんのほか、現地採用を含めて9人のスタッフがオフィスで働く。10人のうち6人が日本人で、オーストラリア人との混成チームだ。

 安光さんは、日本からメルボルンやオーストラリアへの旅行者を取り込む際、メルボルン線とシドニー線を組み合わせたツアーなどを提案していくという。「金銭的に余裕があり、旅行でビジネスクラスを利用されるのがシニア層。メルボルンからオーストラリアに入り、シドニーから帰国すれば、行きも帰りも昼間の移動が可能」(安光さん)と周遊するメリットを説明する。夜移動が多い他社便と、昼間の移動で差別化したい考えだ。

底堅い豪州発需要

メルボルン発成田行き初便JL774便の乗客に記念品を手渡す客室乗務員=17年9月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALがメルボルン就航を決めたもう一つの理由は、底堅いオーストラリア発の訪日需要だ。「ブームとしては着実に伸びている。日本からオーストラリアが約40万人に対し、訪日は約45万人で、非常にポテンシャルのある路線、地区だと認識している」と安光さんは話す。

 オーストラリアから日本を訪れる観光客の目的のひとつが、北海道などで楽しむスキーだ。安光さんによるとスキー需要は安定しており、「京都や大阪だけが日本じゃないという雰囲気に、ここ3、4年くらいで大きく変わってきている。これまでの日本への興味が全然違う。いまがベストに近い就航のタイミング」と指摘する。

 メルボルン発成田行きが深夜便であることから、シドニーやアデレードから国内線で乗り継いだり、成田からメルボルンに夜到着した乗客がオーストラリア各地へ向かうことも可能だ。

メルボルン空港を出発する成田行き初便JL774便=17年9月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、シドニー線との組み合わせで、観光客に売り込む昼間移動とは真逆の夜移動が、ビジネスマンには提案できる。「シドニーから入り、メルボルンから帰ればゼロ泊で往復できる」(安光さん)と、私のように空港で現地取材を終えたら、1分でも早く帰国せざるを得ない人間には、こうした体力の限界に挑戦するような選択肢はありがたいものだ。

 メルボルンは日本企業の現地法人も多い。日本からの出張者はメルボルンのオフィスへ立ち寄ってから、現地へ向かうといった効率的なスケジュールが組める。

 また、生鮮食料品を扱う航空貨物では、成田行きはアスパラガスがメインになっているという。

 成田発初便の乗客数は定員161人に対してほぼ満員だった。そして、折り返しとなる2日のメルボルン発初便は日本人が60人くらい、非日系客が100人くらいの割合だったという。「9月のメルボルン発の予約率は平均95%。販売期間が短かった割に、想定以上の予約をいただいている」(安光さん)と好調。将来的には787-8よりも座席数が多い787-9(3クラス195席/203席)に、機材が変更になることもありそうだ。

 メルボルン線は、既存のシドニー線と運航スケジュールも異なる時間帯にすることで、オーストラリア国内線との接続を含む需要獲得を狙った新路線と言えるだろう。

運航スケジュール
成田-メルボルン
JL773 成田(10:30)→メルボルン(21:55)運航日:9月1日から
JL774 メルボルン(00:05)→成田(09:05)運航日:9月2日から

JL773 成田(10:30)→メルボルン(22:55)運航日:10月1日から
JL774 メルボルン(00:35)→成田(08:35)運航日:10月2日から

JALのメルボルン空港のオフィスに飾られた寄せ書き=17年9月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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