学校の夏休みが始まり、遊びや勉強のほか、将来の仕事について研究する人もいるだろう。空に関する仕事についても、航空会社や空港、重工メーカー、官公庁などがさまざまなイベントが、すでにいくつか開かれている。
日本航空(JAL/JL、9201)では、中高生を対象とした航空教室「空の仕事を知ろう!」を羽田空港の格納庫で6月24日に開いた。関東地方を中心に東北や関西、九州などから高校生を中心に48人が集まった。
今回のイベントでは、パイロットや客室乗務員、整備士、地上係員が普段の仕事を紹介しながら、その仕事を目指す上で勉強したことや経験談など、学生が投げかける率直な疑問に答えていた。空の仕事を目指す上で、どういったことが重要になってくるのだろうか。
イベントで講師を務めたのは、パイロットは777運航乗員部の機長、菊川勝揮さん、客室乗務員はコーポレートブランド推進部所属のリードキャビンアテンダント、飯塚康子さん、整備士はJALエンジニアリング羽田航空機整備センターの髙田雅貴さん、地上係員はJALスカイ羽田事業所第2部国内パッセンジャーサービスのサブリーダー、遠藤有紀さんの4人。普段持ち歩いている仕事道具の紹介を交えて、航空教室はスタートした。
—記事の概要—
・4人それぞれの空の仕事選び
・一番難しい試験は?
・菊川さん「わかりやすく説明するのは難しい」
・飯塚さん「学校生活を思いっきり楽しんで」
・髙田さん「飛行機を止められるのは整備士だけ」
・遠藤さん「要点をおさえて話す」
4人それぞれの空の仕事選び
幼稚園のころからパイロットになりたかったと話す菊川さんは、1月に機長昇格。機長の帽子やiPadを紹介した。帽子や制服に付けられた線の数が4本線であれば機長、3本線は副操縦士といった決まりに触れながら、乗務時に持ち歩いているiPad miniを見せた。
iPadはEFB(エレクトロニック・フライト・バッグ=電子運航マニュアル)として使用しており、菊川さんは航路図や空港の地図などを表示しながら、パイロットの仕事の流れなどを説明した。
客室乗務員の飯塚さんは大学卒業後、ほかの職業を3年間経験して入社した。昨年5月からは、航空教室などで客室乗務員の仕事などを紹介する地上勤務に就いている。JALには、広報や宣伝、機内サービス開発など、地上勤務を2年程度受け持つ客室乗務員がおり、飯塚さんはその一人だ。
「家族でJALに乗ったときにサービスに感動して、客室乗務員を目指しました」と、仕事を目指すきっかけとなったエピソードを披露した。
整備士の髙田さんは、父親が飛行機好きだったことや、中部空港で働く整備士の姿を見て、この道に進んだという。
髙田さんは、整備記録に出発時のサインをする整備士の社内資格「ライン確認主任者」を4月に取得。今はボーイング737型機を担当している。
地上係員の遠藤さんは、「空港やホテルで働く“受付のお姉さん”になりたかったです」と子供のころに憧れていた仕事について話した。地元の中部空港で働く係員を見て、地上係員に志望を絞ったという。
遠藤さんは、チェックインカウンターや搭乗口だけではなく、オフィスで働く同僚もいることなど、地上係員が受け持つ仕事が多種多様であると説明。そして、刃物を持ち込めない制限エリアではハサミを使えないことから、定規を代用品として持ち歩いていること、各自が新人時代から独自のマニュアルを作り、お守り代わりに使っていることを明かした。
4つの職業の内容や、この仕事に進んだきっかけを聞いた学生たちはこの後、格納庫を見学。整備中のボーイング767-300ER型機の外観を見たり、隣接する滑走路を離陸する機体をスマートフォンで写真に収めたりしながら、4人に質問を問いかけていた。
一番難しい試験は?
格納庫を見学後は職種ごとに講師を囲み、学生たちが持つさまざまな疑問をぶつけていた。
「パイロットになるためには、どういう勉強をすれば良いか」との質問を受けた菊川さんは、「どの科目をというよりは、幅広く勉強した方がいいですね。実際には身体検査が一番難しいんですよ」と、パイロットには不可欠である身体検査や、体調管理の重要性に触れた。
客室乗務員の飯塚さんは、採用試験の面接に対する心構えについて、質問を受けていた。「面接は楽しむ気持ちを持ってほしいですね。友人や知人とお話しする感じで、コミュニケーションを楽しんだほうが、うまくいくと思います」とアドバイス。
普段の乗務で一番心掛けたことを聞かれた飯塚さんは、「笑顔です。客室乗務員の表情が印象を決めてしまうので、早朝や天気が悪い日でも負けない最高の笑顔を心掛けています」と笑った。
整備士の髙田さんは、「定時性を守ることがやりがいですね」と仕事のやりがいを話した。「1機任されるので、やりがいがあります。飛行機の整備士はずっと勉強です」と、常に進化する機材のことを学び続けることの重要性を、学生たちに語りかけた。
地上係員の遠藤さんは、さまざまな仕事を分担してこなしていく仕事の特徴から、「一人では何もできない仕事です」と話す。
「羽田では多くの地上係員が働いていて、先輩の中でも名前と顔が一致しない人がいるほど。それでも、一人でお客様につきっきりで仕事をするわけにはいかないので、引き継ぎをすれば仕事が成り立つようにしています」と、遠藤さんはチームワークが求められる仕事だと説明した。
菊川さん「わかりやすく説明するのは難しい」
講師役を務め終えた4人に、感想や自らがこの道に進んだきっかけなどを尋ねてみた。
パイロットになるための勉強のうち、身体検査の重要性を説明した菊川さんは、「身体検査は、ある意味対策のしようがないですよね」と笑い、健康な体作りが普段のフライトで不可欠だという。
「パイロットは勉強がそんなに求められる職業ではありません。口頭で飛行機の仕組みを答えられるかなど、勉強すればよいことです。それよりも、コミュニケーション力が大切ですね」と指摘する。
「私はJALが2010年に破綻後、大韓航空(KAL/KE)に出向していました。そこには、他国からもキャプテンが来ていて、JALのやり方はきめ細かく、やり過ぎじゃないかと思うところもありました。外国人キャプテンの飛ばし方を間近で見られたのは勉強になりました」と、外国人機長と組んでフライトした経験が、仕事の仕方を改善していく上で、役立っているという。
JALは現在、副操縦士はボーイング737-800型機から乗務するよう、教育プログラムを組んでいる。「私の時は、いきなり777でした。このため、離着陸経験が今の人たちの新人時代と比べると少なかったですね。経験がものをいう仕事なので、経験という意味では今の人の方が恵まれているかもしれません」と話した。
菊川さんは、ボランティアで熊本地震で被災した子供向けの航空教室を、仲間と開いている。講師を務めることについて、「わかりやすく説明するのは、なかなか難しいです。僕は子供のころからパイロットを目指していました。飛行機は面白いし、フライトが面白い。その面白さが伝えられればいいですね」と笑った。
飯塚さん「学校生活を思いっきり楽しんで」
客室乗務員の飯塚さんは、機内で各クラスの責任者などを務める「リードキャビンアテンダント」に、4月に昇格した。飯塚さんも健康管理の重要性を学生たちに話していた。
「健康管理は難しいことでもなく、英語のような努力とも違うので、規則正しい生活の大切さを知ってもらいたいと思いました」と飯塚さんは話す。そして、飯塚さんが客室乗務員を目指したのは、家族と乗った際のさりげない気配りだったという。
「大学生の時に家族とJALに乗った際、薬を飲もうとしたときに手元に水がありませんでした。客室乗務員に水をお願いしたところ、白湯(さゆ)を出してくれました。それだけのことですが、さりげなくできることに感動しました」と、自然な気配りにひかれた。
飯塚さんは学生から「心配事のような質問が多かったですね。将来のことを考えてどういう勉強をしたらよいか、学部はどこがよいかといった質問がありました。でも、自分でできることからやり、日々の学校生活を思いっきり楽しんで、勉強や部活を楽しむことが将来につながると思います」と、笑顔で話す。
「空の仕事に就きたい、乗ってみたい、と思ってもらうきっかけになるとうれしいですね」と話した。
髙田さん「飛行機を止められるのは整備士だけ」
整備士の髙田さんも、「夜勤があって不規則なので、まずは体力ですね」と断言する。その上で、「いろんな部署からのさまざまな要望を受け入れて判断する力や、精神力です。そして素直な気持ちですね」と話す。
「飛行機に問題があった時に、止められるのは整備士だけ。しかし、専門的な知識は入社前から必要なわけではありません」と、使命感や意欲が重要だと指摘する。
髙田さんはライン確認主任者になり、初めて送り出した便を今でも覚えている。4月17日の広島行き始発だった。「わかっていながらも緊張しました。ログを書く手が震えていました」と話す髙田さんは、やりがいを感じて日々飛行機を送り出しているという。
遠藤さん「要点をおさえて話す」
地上係員の遠藤さんは、「第一印象が大事、と学生さんの前で話をしたので“言うだけのことはあるな”と思ってもらえるよう、内容が伴うよう気をつけました」と笑う。
「映画館などの受付にいる人に憧れていました。地元に中部空港ができて、お店もあって遊びに行っていました。雲の上の存在でしたが、大学が航空業界に力を入れていて、素敵な業界だなと感じて進みました」と、この道に進んだきっかけを振り返る。
チームで仕事をすることの重要性を力説していた遠藤さんは、「引き継ぎをした仕事によっては、自分の思い通りにならないこともあります。そうならないよう、要点をおさえて話をするよう心掛けています」と話す。
遠藤さんは小松空港でカウンターに立てない人が出た際、羽田から1カ月間応援に出向いた。「羽田であれば、人数が多いので誰かしらがカバーしてくれますし、自分も積極的にカバーにいけます」と、人数が少ない空港で仕事をすることで、改めてチームの大切さを感じたという。
航空会社の現役社員による、“進路相談会”ともいえた今回の航空教室。中には職種に偏らず、あちこちで質問する女の子の姿も見られた。いずれの仕事も、体が資本と言え、規則正しい生活や、家族や友人、知人とのコミュニケーションといった、勉強以前のことが重要といえるようだった。
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日本航空
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