三菱重工業(7011)と三菱航空機は現地時間6月18日、第52回パリ航空ショーが19日から開かれるパリのル・ブルジェ空港でMRJの飛行試験3号機(登録番号JA23MJ)をお披露目した。ローンチカスタマーである全日本空輸(ANA/NH)のカラーリングをまとい、ANAを傘下に持つANAホールディングス(9202)の篠辺修副会長も出席した。
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MRJは、メーカー標準座席数が88席の「MRJ90」と、76席の「MRJ70」の2機種で構成。エンジンはいずれも低燃費や低騒音を特長とする、米プラット・アンド・ホイットニー製のギヤード・ターボファン・エンジン(GTFエンジン)「PurePower PW1200G」を採用する。1日には、PW1200GがFAA(米国連邦航空局)の型式証明を取得した。
当初2013年だった納期は5度目の延期により、2020年半ばを計画。開発遅延に伴い、2016年11月からは三菱重工の宮永社長直轄の開発体制に移行した。
今回パリへ持ち込んだのは、5機あるMRJ90の飛行試験機のうち3号機で、飛行試験の拠点である米国のモーゼスレイクには、今年4月に到着。ANA塗装には米国で塗り直し、ル・ブルジェ空港には、15日夕方に到着した。
—記事の概要—
・宮永社長「かなりの完成度」
・ANA塗装「強い気持ちの表われ」
・100席以上の着手未定
宮永社長「かなりの完成度」
機体の完成度について、三菱重工の宮永俊一社長は、「かなりの完成度に来ている。そこをぜひ見ていただきたい」と自信を示した。これまでの開発遅延については「1月にも説明したとおり、国際基準の中で機体を完成していくことに、知見が足りなかった。試行錯誤でやってきて、このように解決したと示したい」と、実機をパリへ持ち込んだ意図を説明した。
宮永社長がパリ入りしたことについて、記者から今後の開発がこれ以上遅れない意思表示かを尋ねられると、宮永社長は「そういう風に理解していただいて結構。より安全な飛行機を完成させるため、最後の検証プロセスにある。飛行機がこんなに完成していますということを、御理解いただければありがたい」と語った。
三菱航空機の水谷久和社長は、パリに機体を持ち込んだことについて、「航空ショーで機体をお見せできて、身近な目標をクリアした。世界を代表する各社が集まっており、世界レベルではスタートラインについた」と感想を述べた。
今後の開発スケジュールをどのようにクリアしていくかについて、水谷社長は「2019年納入の社内目標は、スケジュールを変えるわけではない。1月の新体制発表以降、新しい体制をきっちり作って運用し、それなりに成果が出始めている。この延長線上でわれわれなりにがんばって行けば、計画を守れると信じている」と語った。
今回MRJはパリ航空ショーへ初参加となるだけではなく、欧州での実機初お披露目となった。水谷社長は欧州市場について、「北米だけではなく、欧州にもと思っており、まずはMRJ90を仕上げる。開発状況に理解を深めていただき、将来に向けての話につながっていけばよいと思う」と述べた。
ANA塗装「強い気持ちの表われ」
MRJの飛行試験機5機のうち、すでにANA塗装が施され、国内での飛行試験に投入する予定だった5号機(JA25MJ)は、当面飛行しない見通し。設計変更が進んでいることから、現在は県営名古屋空港に隣接する最終組立工場で、機器配置の見直しなどに使われている。
3号機をANA塗装でパリへ出展することは、宮永社長のトップダウンで決まった。「ANAには遅れを待っていただいて申し訳ない。機体開発がここまできていると、航空ショーでお客様のために全力でやっていることをお示しする、強い気持ちの表われだ」と理由を述べた。
一方、MRJはANA以外にも北米市場などにも顧客がおり、機体の安全性を証明する型式証明(TC)を取得するまでは、航空機メーカーの自社デザインによるカラーリングで、航空ショーなどに持ち込むのが一般的だ。
MRJを発注している他社との関係について、宮永社長は「米国のお客様は、ローンチカスタマーとメーカーの関係をよくご存じなので、(ANA塗装で出展したことを)理解していただけると思う。ネガティブではなく、喜んでいただけると信じている」と語った。
ANAHDの篠辺副会長は、MRJのパリ航空ショー初出展について、「飛行機を設計してから製造するまでの最終盤にきたことを証明していただけた。我々のペイントがどの段階で見られるかが、ひとつのステップだ」と語った。
また、宮永社長の直轄体制である点について、篠辺副会長は「ありがたい。三菱重工が総力を挙げて納期に向けて進めている」と評価した。
MRJのANA塗装は、同社が運航するボーイング787型機と同様、機体前方に大きくMRJのロゴが描かれている。量産機のデザインについて、篠辺副会長は「MRJの文言をどういう形で表現するかは、別途検討する」と述べるにとどめた。
100席以上の着手未定
MRJは2008年3月27日、ANAがローンチカスタマーとして25機(確定15機、オプション10機)を三菱重工に発注し、事業化が決定した。ANAのほか、32機を確定発注した日本航空(JAL/JL、9201)など、7社から計427機を受注。内訳は、確定受注が約半数の233機で、残りはキャンセル可能なオプション契約が170機、購入権契約が24機となっている。
一方、MRJ最大のライバルである、ブラジルのエンブラエルが開発中の「E2」シリーズは、最初の機体となるE190-E2が、2016年2月25日にロールアウト。現行のエンブラエル170(E170)とE175、E190、E195の4機種で構成する「Eジェット」の後継機で、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種で構成する。
2018年の納入開始を目指す、E190-E2のメーカー標準座席数は1クラス106席、2クラス97席、2019年前半から納入予定のE195-E2は1クラス146席、2クラス120席、2021年納入開始予定のE175-E2は1クラス88席、2クラス80席。MRJと座席数で比較すると、MRJ90にとってE190-E2が、MRJ70はE175-E2が競合となる。
今回のパリ航空ショーでは、エンブラエルはE2シリーズ最大の機体サイズとなるE195-E2の初号機(登録番号PR-ZIJ)を出展。地上展示するほか、飛行展示も予定している。
80席クラスの機体から、リージョナル機では大型となる100席を超える機体まで、E2シリーズは幅広い選択肢を航空会社に提案できる。
三菱航空機では、長胴型のMRJ100Xを100席クラスで検討している。宮永社長は、「リージョナル機のコアマーケットは、MRJ90とMRJ70のクラス。技術的に成功させることの次に、事業として成功させることが重要だ。MRJ90とMRJ70をしっかり成功させる」と述べ、当面は100席以上のクラスに着手しない考えを示した。
関連リンク
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三菱重工業
三菱航空機
全日本空輸
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