エアライン, 解説・コラム — 2017年3月8日 23:59 JST

「ピーチ変わるな、もっと行け!」特集・井上CEO就航5周年インタビュー(後編)

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 3月1日に就航5周年を迎えたピーチ・アビエーション(APJ/MM)。5周年を迎える直前の2月24日、株主のANAホールディングス(ANAHD、9202)は連結子会社化すると発表した。ピーチの株主は3社で、ANAHDは残る株主2社から4月10日に株式を取得し、出資比率を現在の38.7%から67.0%に引き上げて子会社化する。

 24日の会見で、ANAHDの片野坂真哉社長は、「ピーチの独自性を尊重する。株主間契約でも確認し、ピーチの社員にも説明した。企業価値をもっと高めて欲しい」と述べ、子会社化をするものの、ピーチの独自性を維持していくと明言した。

 人事についても、「役員や幹部を親会社から送り込む考えはない」(片野坂社長)と、ピーチ側が望まない人事は行わない方針だ。

 そして、マイレージ導入や予約システムの統合、ANA便とのコードシェアについて、ピーチの井上慎一CEO(最高経営責任者)は「一切やらない」と断言した。

5年前の就航当時、自動チェックイン機などが暫定的に並んだ関西空港のエアロプラザでA320の模型を手にするピーチの井上CEO=17年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 5周年を迎えたピーチは、2017年度は年間600万人強の利用者獲得を目指す。今夏には仙台空港を第3拠点化し、2018年度に新千歳空港を第4拠点化する。新千歳は中国や台湾などへの国際線や北海道外からの国内線に加え、北海道内を結ぶ地域間路線の開設を目指す。仙台や新千歳からは、上海へ国際線を飛ばす計画を進めている。

 井上CEOへのインタビュー前編では、5年間の振り返りと、LCCとして重要な考えを中心に聞いた。後編となる今回は、今後の事業展開を中心に聞く。

—記事の概要—
ANAとピーチ「お客様が違う」
社外は「ピーチ変わるな、もっと行け!」
アジアで唯一無二目指す

ANAとピーチ「お客様が違う」

──ANAHDの出資比率が上がるが、価値観のぶつかり合いは起こるか。

出資比率変更後のビジネスについて説明するピーチの井上CEO(左)=17年2月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

井上CEO:そもそものターゲットとなる利用者層が異なる。

 ビジネス客とツアー客がメインのANAと、親族訪問などの利用もあるピーチでは、ターゲットがまったく違う。それをもって話をしてきても、まったくワーク(機能)しない。

 片野坂社長は、それを認識されていた。そして、ピーチは利益が出て実績をあげている。

──利益が出て続けているのは、何がうまくいったからなのか。

井上CEO:何をやるかではなく、何をやらないかを明確に決めたことだ。システム統合とか、コードシェアはやらない。アライアンスは論外。なぜ人様のために自分が妥協するのか、理解できない。

関西空港のエアロプラザに設置されたピーチのチェックイン機=12年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 妥協して儲かるならいいが、とんがってきた生き様の角(かど)が取れてしまい、普通に近づいてしまう。批判するわけではないが、理解できないので(アライアンスには)参加しない。

 コードシェアも一緒。ANAとピーチではお客様が違う。期待値もANAと違う。ラウンジないの? このサービスは有料なの? となってしまう。間接コストが膨れていく。

──子会社後も、ピーチとして上手くいくものを出せば良いと。

井上CEO:そういうことだ。片野坂社長はそれを支援するとおっしゃっている。

 片野坂社長には、ピーチはANAHDの戦略兵器に見えているのだと思う。ANAでは出来ない、自分たちでは勝てないことをやるため、社内ベンチャーで始まったのがピーチだ。

 アジアの航空会社と戦って勝てる日本の航空会社はピーチ以外にない、ということで、ANAHDの増資が決まった。

社外は「ピーチ変わるな、もっと行け!」

バスから降りて搭乗前に記念撮影する札幌行きMM101便の乗客=12年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

──子会社化の発表後、社外の反応は。

井上CEO:心配してくださっている。角が取れるのか? 井上はクビになるのか? とね。

 そこでハッと気がついた。社外ではそう見てらっしゃるのかと。いわゆるダメな会社の合併ではなく、(ANAHDがピーチを)戦略的に使っていこうという、(われわれは)ポジティブな受け止めだ。

 ピーチは変わるな、もっと行け! という声が大きかったのはうれしかった。もう一つあったのは、(角が取れたら)世の中がつまらなくなるという意見だった。社外のご期待はあるんだなと感じた。

──社内の反応はどうだったか。

関西空港でピーチの初便となった札幌行きMM101便を見送る客室乗務員=12年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

井上CEO:株主3社からピーチへ説明に来られた。社員に対して、ピーチへの期待感を明確に言われた。

 日にちが経っていないので正確には聞き取れていないが、ネガティブな話は聞いていない。

──株主はピーチの独自性を守ると、一筆書いているのか。

井上CEO:株主間の話なのでわからない。ただ、それぞれが同じ場(記者注:社員への説明会)で同じことを言っている。(一筆書いたものが)あるのと同じではないか。

記者注:2月24日の会見で、片野坂社長は「ピーチの独自性を尊重する。株主間契約でも確認し、ピーチの社員にも説明した」と、記者(私)の質問に答えている。

アジアで唯一無二目指す

──北東アジアのリーディングLCCを目指すとおっしゃった。これから仙台空港や新千歳の拠点化、エアバスA320neoの導入などがあるが、これらの点をどうつなげるか。

井上CEO:つながりつつある。ピーチが就航し、外国人がしょっちゅう日本を訪れるようになった。これにより、国内線への乗り継ぎが増えている。

バンコクのスワンナプーム空港の搭乗口で那覇行き初便MM990便の乗客にあいさつするピーチの井上CEO=17年2月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 うちのマーケティング部門が調査したところ、バンコクでは沖縄は一番近い日本で、その先に大阪、東京があると見えている。1週間くらい滞在する人も多く、前半は沖縄、後半はほかのところという過ごし方をしているようだ。

 日本の魅力が広がってくると、仙台や長崎など、東京や大阪以外の都市を訪れる人が、どんどん増えていくだろう。

 これらの点がやがて、線でつながるのではないか。まさに電車で、安いからいいじゃないか、となるのではないか。

──仙台と新千歳を拠点化するが、その後はどうしていくのか。

井上CEO:条件が整えば、海外もやりたい。海外の拠点は、(就航する地域の)一歩奥へ入っていける。しかし、空港のスロット(発着枠)が一杯だ。

 国内では沖縄はもっとやりたい。地方都市間の需要はあると思う。(すでに就航している)那覇ー福岡線のような感じだ。仙台からどこか、札幌からどこか、というようにだ。そして、既存路線では増便したいところがある。

──ピーチが運航しているA320の180席という席数は、地方都市間の需給としてどう捉えているか。

関空第2ターミナルで国内線の乗客に記念品を手渡すピーチの客室乗務員=17年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

井上CEO:政府は2020年に(年間訪日客数)4000万人を掲げているが、一昨年の倍。政府は本気でグイグイやっている。

 インバウンドが倍増するということは、(地方都市間の需要増に)強い影響を及ぼすのではないか。乗り換え需要も、太くなるのではないか。

 こうした動きから、仙台から福岡とか、ひょっとしたら需要があるのではないか。

 電車みたいな路線網が出来て、地方に住むというムーブメントが起きたら素敵だ。

──介護や帰省需要を取れたピーチであれば、おかしくないと。

井上CEO:単身赴任だけではなく、孫の顔を見に行くといった需要があると思う。そのためには路線も増やさなければならない。朝来て、夕方帰れれば素敵だ。

──ピーチはなぜ、日本人には馴染みが薄い「Aviation(アビエーション)」を社名に付けたのか。

井上CEO:根本的には差別化だ。「エアライン」というと、航空会社のイメージがある。一方、「アビエーション」は航空産業だ。航空産業のポテンシャルは、もっとあると思っている。エアラインにとらわれない。

 そういう意味で、(ピーチのコンセプトである)「空飛ぶ電車」のように敷居が低くなり、航空のポテンシャルを示せたかと思う。究極は、通勤飛行機みたいなものだ。

──これからのピーチはどうなるのか。

井上CEO:独自性を磨き上げる。アジアのマーケットで、勝ちながら進めるのはピーチだけ。ANAHDに連結化されたからと、安心してはダメだ。それは片野坂社長の意に反する。

 益々とんがらないとダメで、新しい価値を創造するアジアで唯一無二の会社になる。そうすることで、ANAHDの価値が上がる。

(おわり)

関連リンク
ピーチ・アビエーション

特集・ピーチ井上CEO就航5周年インタビュー
前編 「プロ集団じゃないとLCCは成立しない」(17年3月6日)

就航5周年当日
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