2019年にエアバスA350 XWBを導入する日本航空(JAL/JL、9201)は、エアバスがシンガポールに開設した運航乗務員の訓練施設を視察した。ボーイング767型機を運航する機長が現地を訪れ、A350 XWBのフルフライト・シミュレーター(FFS)を体験。「コツをつかめば操縦しやすい」と話した。
767機長、A350体験
JALで767を担当する山岡孝史機長(57)が、訓練施設「エアバス・アジア・トレーニング・センター(AATC)」でA350のFFSを体験した。山岡機長がこれまで操縦してきた747などのボーイング機には、操縦桿(コントロールホイール)がある。一方のA350をはじめとするエアバス機には操縦桿がなく、操縦席の脇にサイドスティックが左右各席に1本ずつ備わっている。
FFS体験後、山岡機長は「操縦桿がないことに違和感がある」と話し、「最初はどのように操作するか分からなかった。操縦桿の感覚で右に倒したり左に倒したりすると、飛行機が暴れる」と振り返った。「ある程度の姿勢になったときに、サイドスティックから手を離し、力を抜く」ことで機体はスムーズに進むようで、「コツをつかめば操縦しやすい」とした。
当初、違和感があった操縦桿のない操縦席は「広く感じた」ようで、「チャート表などを広げても計器類が隠されることがない」と話した。
今回のシミュレーター操作では、ジャック・シラク氏とニコラ・サルコジ氏の2人のフランス元大統領の専属パイロットを務めた、AATCのヤン・ラルデ・ゼネラルマネージャー(GM)が教官となり、マカオから香港(RWY07)に向かうルートを飛行。山岡機長はラルデGMから指示を受け、操縦した。
A350には、高度や速度などの情報がパイロットの正面に映し出される「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」が備わっている。山岡機長は「HUDはJALの787にも装備されている。私自身は初めての経験」と話し、「今は前面の計機を見つつ、外の滑走路などを見ている。(HUDがあることで)外を見ながら、気象状況や滑走路の方向などを確認できる」とHUDの利便性を説明。「目線を動かすことはあまりよくない。1カ所の方向を見つつ、情報を得られるのは楽だ」とした。
「最初に乗務したのは(1970年代の)747。計機の数が多くて、エンジン関連だけでも数十個あった」と乗務開始当初を振り返った山岡機長は、「その後、767や747-400に導入された『グラスコックピット』では、大型ディスプレイで表示した」と技術の発展を説明した。操縦中に目線を動かすこと好ましくないとし、「(グラスコックピットは)物理的に目線を動かさなくていいが、HUDはさらにそれを補ってくれる」と述べた。
2カ月かかるボーイング機の移行訓練
AATCでは、ボーイング機の運航資格があるパイロットがA350などエアバス機へ移行する場合、25日程度で移行できるとしている。山岡機長によると、767から777など、ボーイング機どうしでの移行訓練には2カ月程度かかるという。「ボーイング機は手厚く訓練している」とした上で、「訓練の時間が短いのは、乗員にとっても負担が減る」とした。
整備士は777とA350など、複数機種の整備資格を保有できるが、パイロットは1機種のみ同時限定で取得できる。JALでは767から777に移行した乗務員が、767に復帰するケースもあったようで、その場合は2カ月以上かかる復帰審査を受けなければならないという。
山岡機長は「私は難しい機体で育った人間」とし、「今後の世代は、コンピューター化されている機体で育つ。(技術よりも)飛行管理能力などが求められるのではないか」と述べた。
機種ごとのコンセプト学んで
ことし58歳の山岡機長は、自身が将来的にA350を担当する可能性について「間もなく定年を迎える」と話し、「そこで一旦、以降のキャリアをどうするか考える。健康であればやりたい」と乗務に意欲を示した。
今後、A350に移行するパイロットには「787に移行したときも、HUDではなく前方の計機をついつい見てしまう」と具体例を挙げ、機種特有の機能をいかに習得するかがカギ、と述べた。「緊急事態などが発生した場合、以前の機種の言葉がつい出てしまう」と続け、「(機種ごとの)違いやコンセプトをしっかり学んでほしい」とエールを送った。
JALのA350
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AATC、報道関係者に公開
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