4月に関西空港と伊丹空港の運営を始めた関西エアポート。既報の通り、12月8日に発表した第1期の期末決算は、営業収益が891億円、EBITDA(利払前税引前償却前営業利益)が388億円、営業利益が195億円、経常利益が115億円、純利益が75億円だった。
第1期は会社が設立された2015年12月から今年9月まで。関西エアポートと従来運営していた新関西空港国際空港会社では、会計基準が異なる。このため、今回の決算では、関西エアポートでは対象外となった鉄道事業の売上を除外したり、資金調達構造が異なることなどを考慮。同社が比較可能な状態に調整したとする値で比べると、新関空会社の2015年度中間決算と比べ、営業収益は実質2.9%、経常利益は同2.6%それぞれ増加したという。
関西エアポートは、オリックス(8591)と仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートのコンソーシアム(企業連合)が2015年12月に設立。関空と伊丹の運営は、国に所有権を残したまま運営権を売却する「コンセッション方式」で関西エアポートへ委託されており、空港用地や施設は、新関空会社と関西国際空港土地保有会社が所有する。契約期間は、2015年12月15日から2060年3月31日までの44年間を予定している。
オリックス出身の山谷佳之社長は、「44年間の順調なスタート」と第1期を終えた感想を述べた。一方、航空会社からは運営1年目にして不満の声が漏れ聞こえてくるなど、順風満帆とは言えないようだ。
沈静化した爆買いをはじめ、これまでのような急激な訪日需要の伸びが期待できない中、関西エアポートは社内外の課題への対応が迫られている。
—記事の概要—
・非航空系が6割
・課題となる長距離国際線
・新路線で旅客増やす国内線
・“5本”の滑走路
・社内外から漏れる不満
非航空系が6割
891億円の営業収益のうち、着陸料や旅客サービス施設使用料(PSFC)、旅客保安サービス料(PSSC)、搭乗橋施設(PBB)使用料など航空系事業の収益は348億円で、ターミナルビル内の免税店や物販、駐車場など非航空系が544億円となった。売上比率でみると非航空系が6割と、本業である航空系を上回った。
新関空会社の2015年度中間決算では、営業収益は916億円だった。関西エアポートでは、第1期の営業収益891億円に、鉄道事業の売上など新関空会社の決算で含めていた51億円を積み上げ、営業収益を942億円とした上で前年度比較を算出。実質2.9%増とした。
経常利益については、会社設立から空港運営を始めるまでの期間にあたる2015年12月から今年3月までは、28億円の経常損失だった。このため、空港運営を始めた4月から第1期末の9月までの経常利益143億円から、この28億円を差し引き、115億円とした。
新関空会社の決算との比較で、経常利益を前年同期比実質2.6%増としたことについては、143億円の経常利益に運営権対価110億円を積み増すなど、コンセッション関連の会計処理や鉄道事業がなくなったことなどを考慮。調整後の経常利益254億円と、新関空会社の前年同期比の値である248億円を比較し、実質2.6%増という数字を導き出した。
関西エアポートが支払う運営権対価は、年額372億7500万円。これに44年を掛けた1兆6401億円を基に、現在価値に割り引いた1兆4405億円を無形資産の「公共施設等運営権」として計上して、44年間で均等償却する。割り引かれた1996億円は、運営権対価の支払いが進むほど減少する支払利息として、費用計上する。
課題となる長距離国際線
今後の課題は、国際線や国内線のさらなる路線拡充や、民営化する神戸空港との関係だ。伊丹空港については、地元自治体から中国や台湾、韓国といった近距離国際線を視野に、民営化を契機とする再国際化の要望が出ている。
2016年度上期(4-9月期)の関西空港の通過旅客を含む国際線と国内線の総旅客数は前年同期比7%増の1280万6500人。このうち、国際線は13%増の949万1930人で、外国人が17%増の621万6850人、日本人が6%増の315万7034人だった。一方、国内線の旅客数は8%減の331万4570人だった。
国際線は11月4日にニュージーランド航空(ANZ/NZ)が、オークランド-関西線を3年ぶりに再開。ニュージーランドの夏期にあたる2017年3月26日までの季節便で、週3往復運航する。
2015年以降の長距離線再開は、日本航空(JAL/JL、9201)が2015年3月から約8年半ぶりに再開したロサンゼルス線、同年5月に6年7カ月ぶりに再開したエア・カナダ ルージュ(ROU/RV)による季節便(10月まで)のバンクーバー線の2路線で、オークランド線はこれらに続く再開となった。
2016年冬ダイヤ(10月30日から17年3月25日)では、中国路線が過去最高となる週451便が乗り入れるのに対し、欧米路線が減便となっている。
北米方面は、ユナイテッド航空(UAL/UA)がサンフランシスコ線を前年冬期比で週2往復減便。テロなどの影響により日本人旅客が減少している欧州方面も減便となり、各社ごとの減便数はターキッシュエアラインズ(旧称トルコ航空、THY/TK)が週3往復、エールフランス航空(AFR/AF)が週2往復、ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)とKLMオランダ航空(KLM/KL)が週1往復ずつとなる。
このうち、ターキッシュは1月31日が関空発便の最終日となる。関空から欧州への需要低迷によるものだ。関西財界からは、ロンドンなど欧州路線を求める声が聞かれるものの、航空会社が路線を維持できるだけの需要が見込めない状況が続いている。
関西エアポートの山谷社長は、「欧州からの訪日客は増えているが、日本からが減った。それほどテロの影響は大きい。いろいろなエアラインとのパイプを太くし、渡航需要が戻る時はタイミングを逃さずつかまえたい」と語る。
ヴァンシ出身のエマヌエル・ムノント副社長は、「旅客がどこからどこへ向かったかなど、ヴァンシのデータに関心があるエアラインには提供している。羽田経由ではなく、関空から直行便を飛ばして欲しい」として、関空からの長距離路線の誘致を航空会社へ働きかけていく。
新路線で旅客増やす国内線
国際線の長距離路線で苦戦するだけではなく、国内線も前年割れが続いている。10月の国内線旅客数は前年同月比3%減の57万2117人で、12カ月連続で前年を割り込んだ。
山谷社長は「ジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の大分線と熊本線がなくなった」と要因を説明する。ジェットスターの関西-大分線は、2014年10月9日に開設し、2015年10月24日で運航を終えた。関西-熊本線は2014年10月26日に就航し、今年3月26日が最終日となった。
一方、今年9月28日からは、春秋航空日本(SJO/IJ)が成田-関西線を1日1往復で開設。ジェットスターも、1月と3月に期間限定で成田-関西線を1日2往復増便する。2月18日には、バニラエア(VNL/JW)も同路線を1日2往復で新設し、国内LCCは4社すべてが成田-関西線を運航することになる。
バニラは3月18日から関西-函館線を季節便で開設する。山谷社長は「LCCも体制が整ってきた。(支援も)いろいろ考えていきたい」と、LCCによる路線拡充に期待を寄せる。
しかし、新路線頼みの旅客数増加には限界がある。路線が減少しても、既存路線の需要が伸びていれば、前年割れは防げるはずだ。国内線の需要増加に向け、航空会社だけではなく、空港を運営する関西エアポートにも努力が求められるのは言うまでもない。
“5本”の滑走路
関西エアポートが運営する伊丹空港については、地元兵庫県の
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