上海に国内LCC初の路線が就航した。ピーチ・アビエーション(APJ/MM)の羽田-上海線と関西-上海線の2路線で、ともに浦東国際空港へ乗り入れる。いずれも深夜便で、関西発MM079便は午後10時25分に出発し、翌日午前0時20分着。羽田発MM1079便は午前2時10分に出発して、午前5時に到着する。
羽田空港と関西空港から初便が到着した11月2日夜、上海市内では就航記念のレセプションが開かれ、ピーチの井上慎一CEO(最高経営責任者)や、同社に33.3%出資する大株主で、香港の投資会社ファースト・イースタン・インベストメント・グループ会長の諸立力(ヴィクター・チュー)氏らが、招待客をもてなした。
上海2路線は週5往復でスタートしたが、早ければ2017年3月にも週7往復化し、利用者の定着を目指す。そして、2017年夏を目途に第3拠点化する仙台空港と、2018年度に第4拠点化する札幌の新千歳空港からも、上海へ就航する意向を固めた(関連記事)。
17機のエアバスA320型機(1クラス180席)で、国内・国際線を問わず関空と第2拠点の那覇空港から、片道4時間以内の路線を飛ばすピーチ。羽田-上海線の場合、フライト時間は上海行きが3時間50分、羽田行きは2時間30分と、偏西風(ジェット気流)の影響で復路便は羽田から那覇へ向かうのと大差ない時間だ。
今回の上海2路線就航により、国際線12路線と国内線14路線の計26路線になった。羽田からの国際線は、2015年8月8日就航の台北(桃園)線、2016年2月6日就航のソウル(仁川)線に続き、上海線で3路線目。いずれも深夜便で、台北線は国内LCC初の羽田就航となった。
国内LCC初の中国本土就航にこぎ着けたピーチは、今後どういった路線ネットワークを構築していくのだろうか。井上CEOに聞いた。
—記事の概要—
・上海は「デカい大阪」
・山ほどある100万都市
・成田「24時間ではない」
上海は「デカい大阪」
国内LCC初の中国本土路線となった、ピーチの上海線。就航を計画したのは4年前、2012年3月の1路線目開設からわずか2カ月後、同年5月だったという。一方、当時は尖閣諸島問題など日中両国は政治的に不安定な時期に入ってしまい、航空会社の新路線開設にも影響が及んだ。
「日中関係が改善に向けて動いているのかなと思う。そうなると、民間交流が活発化するのは意義があることだ」と、両国関係の改善を民間人の往来が後押しするとみる。
ピーチは拠点を関西に決めた際、マーケットの大きさや人口、空港が24時間運用である点などから選んだ。井上CEOは上海就航を決めた理由としてマーケットの大きさを挙げ、上海を「デカい大阪みたいな感じ」と表現する。
「街の雰囲気が似ている。そして、おばちゃんが元気で力を持っているのも大阪と同じだ」と、市場規模だけではなく、大阪に通じるものを見出した。「難しいのはセグメントが深いこと。安いチケットに興味を持つ人もいれば、最高のサービスを求める人もいる。その幅が日本よりも広い」と話す。
ピーチが得意とする客層は若い女性。この傾向は上海も同様のようだ。11月の就航初日を迎えると、「イメージ通りのお客様が来た」という。
初便の乗客の中には、「渋谷にいるような女の子もいた。きゃりーぱみゅぱみゅみたいな感じの子たちで、日本のカルチャーが大好き。日本人だと思ったほどだった」と、日本のポップカルチャーが好きな若い女の子たちの姿もあった。
「どこに行くのと聞いたら、表参道や池袋、裏原(裏原宿)だという。あえて『裏原って何?』と聞いたら、『ここがファッションの最先端だ』と答えてくれた」。彼女たちはピーチの就航前から東京へ繰り出しており、「こんなに安いならもっと行く」と、低価格運賃であれば訪日需要を喚起できると話す。
山ほどある100万都市
では、中国最大のマーケットと言える上海の次は、どこを狙うのか。台北や香港など日本人に人気の都市は、どこも国内外のLCCが入り乱れ、競争が激化している。一方、中国本土は国内LCCにとって今後主戦場となり得るマーケットだ。
「100万都市が山ほどある。寧波(ニンポー)や蘇州など、地方都市と言ってはいけないのではないかと思うところもあるほどだ」と、地元中国の春秋航空(CQH/9C)が日本へ飛ばす都市のような、人口100万人以上の都市への就航を目指す。
中国以外には、東南アジアもまだ攻めきれてない。しかし、中国への路線が当面は先行しそうだ。
「経営理念に沿い、アジアの架け橋を実現したい。仙台や札幌から上海へというように、地方都市と結ぶのも一つの貢献だ」と、2017年夏に第3拠点化する仙台や、2018年度に第4拠点化を目指す札幌(新千歳)から、上海へ就航する意向を示す(関連記事)。
仙台にはかつて、中国の文豪で思想家の魯迅(ろじん)が留学。仙台医学専門学校(現在の東北大学医学部)で学び、晩年を上海で過ごした。「2つの都市を結ぶストーリーがあることが面白い。地方と海外を結ぶことで、地方創生に貢献したい」と狙いを話す。
一方、札幌へは関空から1日5往復、成田から1日1往復の2路線が乗り入れている。第4拠点化時には、北海道内を結ぶ地域間路線を開設する計画。上海線を就航させることで、中国人に人気の高い北海道への渡航需要を取り込む。
成田「24時間ではない」
こうした動向とは対象的に、4社ある国内LCCのうちピーチを除く3社が拠点とする成田空港は、拠点化の見通しが立っていない。成田からは札幌(1日1往復)と福岡(同2往復)、那覇(同1往復)と3路線が就航しているが、2015年3月29日に拠点化を視野に就航したものの、首都圏では羽田の深夜便の拡充が続いている。
ではなぜ、成田は拠点化に至らないのか。「24時間運用ではないから」と、井上CEOの答えは明快だ。「仙台は24時間ではないが、スロット(発着枠)がある。成田はスロットがない」。機材稼働率が収益に直結するLCCにとって、空港が24時間運用であるか否かの違いは大きい。
関空という24時間空港に本拠地を置き、アジアのハブとなり得る那覇を第2拠点、東北の中核空港である仙台が第3拠点、旺盛な訪日需要を取り込める札幌が第4拠点と、着実に足場を固めるピーチ。首都圏も24時間空港である羽田の深夜早朝時間帯を使い、国際線の拡充を進める。
ピーチは東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、機材数を現在の約2倍となる35機程度に拡大する。山ほどある中国の100万都市と日本国内の地方空港を結ぶ路線で、ピーチは成長を加速させると言えるだろう。
関連リンク
ピーチ・アビエーション
上海就航
・【スクープ】ピーチ、札幌・仙台から上海就航へ(16年11月3日)
・ピーチ、羽田から上海就航 国内LCC初、関西からも(16年11月2日)
・ピーチ、上海11月就航 羽田と関西から、国内LCC初(16年9月1日)
ピーチ関連
・ピーチ、ケツメイシとコラボ 12月からラッピング機(16年10月24日)
・ピーチ、新千歳を第4拠点化へ 18年度、道内路線や国際線開設(16年10月20日)
・ピーチ、羽田-ソウル線就航 井上CEO「羽田3, 4路線目も」(16年2月6日)
・ピーチ、国内LCC初の羽田便 台北行き初便、台風で夕方出発(15年8月8日)
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・ジェットスター・ジャパン、上海就航へ 17年1月、週4往復(16年11月1日)
特集・黒字ピーチが目指す道
前編 井上CEO「体験する価値求めている」(16年6月18日)
後編 「仙台は国内線で終わらない」(16年6月20日)