国産旅客機「MRJ」を開発中の三菱航空機は、MRJの納入遅延リスクが生じる可能性を、全日本空輸(ANA/NH)などを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)に対し、9月末に説明した。ANAHDによると、引き渡し時期の延期については言及されなかったという。
三菱航空機は10月3日午前、MRJの製造を担当する親会社の三菱重工業(7011)とともに「現時点で納期変更を決定した事実はありません」との声明を発表した。
*三菱航空機からJALへの説明はこちら。
—記事の概要—
・初の欧州受注、キャンセルも
・Q400追加発注済みのANA
・迫る最大手エンブラエル
初の欧州受注、キャンセルも
MRJは現地時間9月28日午後5時44分(日本時間29日午前9時44分)、飛行試験初号機(登録番号JA21MJ)が、飛行試験の拠点となる米ワシントン州のモーゼスレイクのグラントカウンティ国際空港へ到着。米国へのフェリーフライト(空輸)は、8月27日から数えると3度目の挑戦で成功した。
これまでMRJは、最終組立工場が隣接する県営名古屋空港(小牧)で飛行試験を進めてきた。モーゼイスレイクは飛行試験に適した天候であることに加え、離陸後すぐに飛行試験を始められることから、2018年前半までに国土交通省航空局(JCAB)の型式証明(TC)を取得するため、従来よりペースを上げて試験を進めていく。
三菱航空機は9月25日、飛行試験4号機(JA24MJ)が初飛行に成功。5機ある飛行試験機のうち、年内に初号機から4号機までの4機をモーゼスレイクへ持ち込む計画を進めており、残る3号機(JA23MJ)は、10月に初飛行する見込み。
ローンチカスタマーであるANAの塗装を施す5号機(JA25MJ)は、自動操縦試験に投入される。初飛行は2017年初めを予定しており、5号機による試験は国内で実施する見込み。
ANAへの量産初号機の引き渡しは、2018年中ごろを予定している。MRJは8月31日に正式契約した米エアロリースの発注により、ANAや日本航空(JAL/JL、9201)など計7社から427機(確定発注233機、オプション170機、購入権24機)を受注している。
一方、7月にロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーでは、スウェーデンのリース会社ロックトンと、MRJを最大20機(確定発注10機、オプション10機)発注する契約締結に向け、基本合意(LOI)に至った。
受注に至れば、欧州初の契約獲得となるが、LOIは正式契約前の合意にすぎないため、さらなる納期遅延が決まると、発注そのものがキャンセルとなるおそれがある。キャンセルを免れたとしても、20機のうち、確定発注の10機にとどまる可能性も否定できない。
Q400追加発注済みのANA
MRJの米国へのフェリーフライトは、8月22日と26日にも断念している。27日と28日は離陸後に空調システムの不具合で引き返し、8月中のフェリーフライトを断念した。9月26日のフライトは、離陸しなかった8月22日から数えると、5回目の挑戦だった。
現在のANAへの納期が示されたのは、2015年12月24日。それまで2017年4-6月期としていたが、1年遅れの2018年中頃とされた。
これまでのスケジュール見直しを振りかえると、2008年3月27日に、ANAがオプション10機を含む25機を発注したことで開発を開始し、当初の納入時期は2013年だった。
これが主翼の材料を複合材から金属に変更したことなどで、1年の遅れが決定。初飛行を2012年7-9月期、量産初号機納入を2014年4-6月期としたが、2012年4月には2回目の延期が決まり、初飛行は2013年10-12月期、初号機納入を2015年度の半ば以降に伸ばした。
そして、2013年8月22日の3回目のスケジュール見直し発表により、初号機の引き渡しは2017年4-6月期と大幅に延期された。初飛行は5度の延期を経て2015年11月11日となった。
三菱航空機は今回、ANAに対して納入遅延のリスクが生じる可能性があると報告。一方、引き渡しの時期が遅れるとは通達しておらず、ANAは現時点で発注機数を見直す考えはないという。
ANAHDは退役が進むボーイング737-500型機(126席)を中心に、MRJへ置き換える。また、今年6月29日には、加ボンバルディア社のターボプロップ(プロペラ)機DHC-8-Q400型機(74席)を3機追加発注した。日本航空機製造YS-11型機の後継機として2003年から導入しており、21機保有。グループで地方路線を担う傘下のANAウイングス(AKX/EH)が運航している。
Q400の追加発注は、MRJの納入遅れに伴う機材計画の見直しによるもので、2017年度に全機を受領する見通しだ。
迫る最大手エンブラエル
MRJはメーカー標準座席数が88席のMRJ90と、76席のMRJ70の2機種で構成され、エンジンはいずれも低燃費や低騒音を特長とする、米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)製のギヤード・ターボファン・エンジン「PurePower PW1200G」を採用する。
MRJと同じ地方間路線を運航するリージョナルジェット機では、ブラジルのエンブラエル社が最大シェアを握る。同社もMRJと同じ低燃費・低騒音の新型エンジンを採用した「E2シリーズ」の開発を進めている。
E2シリーズは、現行のエンブラエル170(E170)とE175、E190、E195で構成する「Eジェット」の後継機、最初の機体となる「E190-E2」は、予定を大幅に前倒しし、5月23日に飛行試験初号機(登録番号PR-ZEY)が初飛行に成功した。
E2シリーズはE190-E2のほか、「E175-E2」と「E195-E2」の3機種で構成する。メーカー標準の座席数は、E190-E2が1クラス106席、2クラスでは97席。2019年納入開始のE195-E2は1クラス132席、2クラス120席で、2020年に引き渡しを始めるE175-E2は1クラス88席、2クラス80席となる。
6月30日時点の受注残は、E175-E2が100機、E190-E2が77機、E195-E2が90機。開発当初はMRJが性能や納期の面で先行していたが、既存顧客が多いE2シリーズが優位になりつつある。
5度目の延期がささやかれるMRJ。モーゼスレイクでの飛行試験や、量産工程での問題発生がゼロとは言い切れない。リージョナルジェット最大手が迫る中、どのように顧客を納得させるかが、これまで以上に重要となりそうだ。
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